小説

司馬遼太郎「斬ってはみたが」

「人間の現象は、おもわぬ要素が入りくみあって、瞬間という作品をつくる」

筒井康隆「乗越駅の刑罰」

「飲みこんで。飲みこんで。熱いだろうが飲みこんで。熱いからこそうまいんだ。熱いけれども我慢して。我慢すりゃこそうまいんだ。熱いけれども我慢して。我慢すりゃこそうまいんだ。呼吸(いき)をとめてはいけないよ。火傷してでも飲みこんで。飲みこまな…

オレが好きな短編。

貧読なんで、あくまでも印象に残ってる作品のみ、メモしとく。 1.アーネスト・ヘミングウェイ「殺し屋」 2.レイモンド・カーヴァー「大聖堂」 3.チヤールズ・ブコウスキー「町でいちばんの美女」 4.G・K・チェスタトン「ポンド氏の逆説」 5.パトリシ…

パトリシア・ハイスミス「僕には何もできない」(「ゴルフコースの人魚たち」扶桑社ミステリー、森田義信訳」)

超個人的に痛ぁ〜いネタを披瀝すると、てめえの弱点をさらけだすばかりか、いろんな意味で書き手たるオレの「イタさ」が倍加するようなマイナス面もあるんだが、まぁいい、オレはオレのコトをなんとなくでも知ってくれる人のために生きているので。。。 で、…

ニック・ホーンビィ「アバウト・ア・ボーイ」(新潮文庫、森田義信訳)

イヴかよ。ノーパン喫茶かよ、と一部の人にしか意味不明で、なおかつ呆れられる連想はともかく、クリスマス・イヴ向きの名台詞/名文句なんて、ボンクラは持ちあわせてねぇんでござんすよ。 「ハイ・フィデリティ」の作者による本作は、ヒュー・グラントのボ…

クライヴ・バーカー「丘に、町が」(「血の本[I]ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車」集英社文庫、宮脇孝雄訳)

貧読なオレでも知ってる、究極の短編ホラー小説。ふっと読み返したくなって、つい。 バーカー初体験は御多分にもれず映画『ヘルレイザー』。見終わって悪夢をみたホラー映画の、数少ない1本だった。パズルボックスに封じ込められた、言葉どおり「血湧き肉踊…

アーネスト・ヘミングウェイ「殺し屋」

ネタがないと、名台詞のネタ元もやや退行(?)、中高生の課題図書みたいな作品が顔を出してきてちっと気恥ずかしいが、まぁ、しょせんボンクラなんで、お目こぼしを。 ヘミングウェイが一日で何作も一挙に書き上げたという代表作だが、全体に漂うひりつくよ…

レイモンド・カーヴァー「大聖堂」(中公文庫「ぼくが電話をかけている場所」所収、村上春樹訳)

「どうだい、ちゃんとできたよ、バブ。私にもわかるよ。あなたはできっこないって思っていたけど、ちゃんとやれたじゃない? たいしたもんだよね。 さあ、それじゃ次にちょっとしたことをやってみよう。腕の具合は大丈夫かな?」 いやぁ、最近のオレに云われ…

トニー・ケンリック「バーニーよ銃をとれ」(角川文庫、上田公子訳)

「自分が何を買おうとしているかわかってんだろうな? あんたは生煮えの教育を買おうとしているんだ」 「違う」とバーニーは言ってドアの方へ歩き出した。 「私が買いたいのは保証。それだけだ」 ひょんなことで南米の元独裁者のスイス銀行隠し預金をせしめ…

向田邦子「花の名前」(「思い出トランプ」新潮文庫所収)

物の名前を教えた、役に立った、と得意になっていたのは思い上がりだった。昔は、たしかに肥料(こやし)をやった覚えもあるが、若木は気がつかないうちに大木になっていた。(略) 女の物差は二十五年経っても変わらないが、男の目盛りは大きくなる。 ……す…

リチャード・ジェサップ「摩天楼の身代金」(文春文庫、平尾圭吾訳)

周到無比なる計画で、超高層ビル爆破を恐喝、4百万ドルの身代金を何と<競馬>を活用してまんまとせしめる、謎の青年トニオの完全犯罪を描く、犯罪ミステリの傑作。使えるセリフも満載! 見よ! キレる男はうるわしの美女とベッドを共にしても、舞い上がる…

チャールズ・ブコウスキー「ポスト・オフィス」(坂口緑訳、幻冬舎アウトロー文庫)

ああ、郵便配達人のやることって、手紙を突っ込んでは女と寝ることだったのだ。この仕事は、おれに向いている。もう、絶対に、絶対に、絶対に。 元来、オレはやさぐれたヤツじゃなかった。でも、いつの間にか自他共に認めるボンクラになっちまっていた。「無…

ニック・ホーンビィ「ハイ・フィデリティ」(新潮文庫、森田義信・訳)

ジョン・キューザック主演、スティーヴン・フリアーズ監督の映画版(2000年)のほうが有名になった観があるが、ぜひ原作を一読あれ。音楽マニア、CDコレクターな貴兄なら、「こりゃ、徹頭徹尾オレのコトだ!」と読みつつ絶叫せずにはいられまい。 つうか、…

『新しいドイツの文学』シリーズ<12>ペーター・ハントケ/元吉瑞枝訳(同学社)

先月、結婚する友人の引っ越し手伝いに行った。 新婚の友人宅の書棚で、この名タイトルを見つけた。 箱詰めのため、本を手にしたオレに、友人の奥さんは、 「いいタイトルですよねぇ! それ、大好きなんですぅ、わたし!」 ニコニコしていた。 ……けっこうヤ…

ジム・トンプスン「グリフターズ 詐欺師たち」(黒丸尚訳)

全身男気作家ジム・トンプスン(Jim Thompson)。詳しい経歴はこちらなどでも。 http://homepage2.nifty.com/yoshinojin/Crime.files/CW1.files/Thompson02.html アメリカのパルプ小説界の鬼才(1906〜77)。“ダイムストア(安物百貨店)のドストエフスキー”…

筒井康隆

ガキどもは夏休みか。<新潮文庫の百冊>のツツイでも読んで、ネットなんざやらずに早寝しな!<嫌味オヤジ ところで、この奇々怪々フレーズ、収録作は「関節話法」でしたっけ? 思い出せンわ。 何を隠そう、このヒトもオレの原体験系熱烈愛好作家。文体も各…

野沢尚氏、自殺続報。

脚本家がおのれ一世一代の大仕事を途中で自らの身命捨ててまで投げ出すとは、よほどのこと。やはり、いまだ報道されないウラ事情があったとしか思えぬのだが。現時点で、司馬正太郎サイドのコメントを不勉強ながら見かけていないのだが、スポーツ誌等では掲…

ウィリアム・アイリッシュ「幻の女」(ハヤカワ文庫、稲場明雄訳)

夜は若く、彼も若かった。 が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。 幕開けからどうにも刹那にして切な、しかれども甘やかな切り出しから、たたらを踏むがごとく、思いがけず眼前に口を開けた陥穽に、くるめいて堕ちていく主人公。 あまりにも有名な冒…

ロバート・A・ハインライン「夏への扉」(福島正実・訳)

彼(注・主人公の愛猫ピート)は、その人間用のドアの、少なくともどれか一つが、夏に通じているという固い信念を持っていたのである。 (略) だが彼は、どんなにこれを繰り返そうと、夏への扉を探すのを、決して諦めようとはしなかった。 いつも心にセンス…

スティーヴン・キング「シャイニング」

いま原作を読み直したら、該当するセリフが発見できずじまい。映画版の記憶で書いてるかも。いずれ確認予定。 コレ、実はただの前フリでして、この<はてな>のコメント欄って、書き込むとメールが送られるようにしておくと、書き込んだ内容が律儀にも、その…

パーカー@「悪党パーカー/殺戮の月」(リチャード・スターク作)

隠し金のある街に相棒の“俳優強盗”グロフィールドと舞い戻ったパーカー。ところが、金は消えていた。街の組織につながる何者かが金を横取りしたのだ。犯人は組織と結託する汚職刑事とその一味だった。ふたりは金を奪い返す算段をつけるが、手違いでグロフィ…

司馬遼太郎「斬ってはみたが」

「人間の現象は、おもわぬ要素が入りくみあって、瞬間という作品をつくる」 国民的歴史小説家、司馬遼太郎の短編の一節から(「アームストロング砲」講談社文庫所収)。幕末の剣士、上田馬之助の奇妙なる肖像を綴った一作。 何を隠そう、司馬遼センセイこそ…