クライヴ・バーカー「丘に、町が」(「血の本[I]ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車」集英社文庫、宮脇孝雄訳)

貧読なオレでも知ってる、究極の短編ホラー小説。ふっと読み返したくなって、つい。
バーカー初体験は御多分にもれず映画『ヘルレイザー』。見終わって悪夢をみたホラー映画の、数少ない1本だった。パズルボックスに封じ込められた、言葉どおり「血湧き肉踊る」(まんまです……)酸鼻きわまる悪夢世界という設定の妙もさることながら、何と云っても魔道士どもの魑魅魍魎な姿にショックを受けた。
で、しばらく経ってから短編集を読んでみてさらに驚いた。映画を上回るビジュアル・ショックに満ちみちていたからだ。イメージ豊かな筆致、ではなく、映像がそのまま眼前に展開されているとしか思えない、完璧精緻なる幻像再現力。何度読んでも、すげぇ。
「丘に、町が」は究極の一編。ホラーとは霊だの魔だのが出てくるから怖い、なんて単純なモンじゃないってコトを、まざまざと見せつけて、骨身に叩き込んでくれる。恐怖とはまずは「人知を超えた」得体の知れないモノだというコトを教えてくれる。
話が飛躍するようだが、題材もアプローチもまるで違うが、根っこのテーマは『地獄の黙示録』あたりともつながるような気がする。なぜって、あの映画の最後でカーツ大佐が呟くセリフは、「Horror...」。人は、おのれの理解を超えた存在がこの世で一番、こわいのだ。*1


*1:戸田奈津子はムリムリ「地獄」って超訳してたけど、意味合い的に絶対、違う。ありていに云って、配給元のヘラルドがつけた邦題に合わせて、もともとの字幕を改悪しただけ。かつての栄光は知らず、そんなこったからギョーカイゴロ呼ばわりされるんだ。