パトリシア・ハイスミス「僕には何もできない」(「ゴルフコースの人魚たち」扶桑社ミステリー、森田義信訳」)

超個人的に痛ぁ〜いネタを披瀝すると、てめえの弱点をさらけだすばかりか、いろんな意味で書き手たるオレの「イタさ」が倍加するようなマイナス面もあるんだが、まぁいい、オレはオレのコトをなんとなくでも知ってくれる人のために生きているので。。。
で、ハイスミス女史の作品、学生時代に意外と読んでるんですよ。「リプリー」シリーズは途中で挫折してるけど、過去に出た短編集とか、邦訳が出てるのはけっこうチェックしてたり。いやぁ、ハッキリ云ってどれもこれも読後感、よくないです。後味悪いまくりです。他人に対する悪意に満ちみちてます。幸せになりたい人が読む本じゃないね。いわゆるカタルシスもないもん。登場人物を残酷な境地に叩き落として、それをひたすらに冷ややかに突き放して眺めるだけといった体。
しかしね、「人の不幸は蜜の味」などと古来申すように、女史のスタンス、実は現実生活に即せば、納得がいったりもする。リアルなんですよ。
女史の市井でフツーに生きる人々へ向けた冷酷無比なまなざしが垣間見える究極の一作は、長編なら「イーディスの日記」(河出文庫とかですかなぁ。年頃の息子がいる教育ママへの悪意を超えた憎悪むきだしな展開が苦笑いモンですわ。
で、もう1冊はきょうの名台詞を含む一作が収録された「ゴルフコースの人魚たち」。マクラが長かったですが、この短編集、ボンクラどもが苦しみにのたうってます。明石家サンタに電話したら暗すぎて使えないネタをくっちゃべりそうな連中のエピソードが連発です。でもね、そんな底抜けなホンモノなネクラばなしのなかから、ふっとどうししようもない登場人物たちへ、共感が湧いてくるんです。トーゼンかもしれませんな。だって、書かれているのはオレたちの同類のコトなんだから。世界で起こるすべてのコトが、すべからく完全に他人事と割り切れる方にはオススメできませんが、この世は結局オレのモノ、だってオレは結局、オレの目を通してしか世界を認識できないんだから、って歯がゆい想いに身悶えしてる、そんな方には一度読んでほしい一作だったりいたします、ハイ。