緒方拳『狼よ落日を斬れ 風雲篇・激情篇・怒濤篇』

幕末維新の動乱期、剣に生き剣に死んだ実在の“ラスト・サムライ”3人−中村半次郎緒方拳)・伊庭八郎(近藤正臣)・沖田総司西郷輝彦)の生きざまを、ひとりの架空の剣士・杉虎之助(高橋英樹)の目を通して描く大河ロマン。
昨夕、WOWOWで放映。未ビデオ&DVD化作品*1、過去にテレビ東京等で放映されていたが、いつも見逃していて、ようやく観られた。
剣劇映画最高峰、三隅研次の劇映画最終作。さすがは希代のチャンバリスト、最後の最後まで「剣」にこだわったとはさすが。もっとも、スタッフも役者も気が合った大映チームでないせいか、細かいながら、各所、やや違和感も。特に、見せ場たる殺陣が控えめというか、勝プロ作品での諸作よりもややシャープさに欠けたような…まぁ、コレはただのマニアの僻目か? 殺陣師は戦前から活躍した巨頭・足立伶二郎。参加作にはマキノ雅弘内田吐夢加藤泰作品などもズラリ。実は本作のようにバリエーションふんだんな立ち回りのほうが王道で、大映での三隅時代劇の殺陣が異端だったのかも。三隅&雷蔵・カツシンコンビの諸作は実はカラミが意外と少ないつうか、ずっと「様式美」志向、キメキメ勝負しているゆえ、かえって印象に残るということなのかも。本作では、さして期待していなかった高橋VS近藤の道場での真剣勝負とか、ハッとさせられるシーンもあったり。
そういや唯一、杉の新妻(松坂慶子!)を斬った悪役・藤岡重慶とその一味を高橋が追い詰めるシーンで、いきなり首チョンパ! 胴体真っ二つ! なんて、いかにも三隅らしい(笑)シーンが出てきて、不謹慎ながら思わず笑ってしまった。ありゃ、絶対、監督が「やってぇなぁ〜」なんて頼んだんだろうな。ほかのシーンはトレードマークの血しぶきシーンもほとんどないんだから。
役者では三隅とは『必殺仕掛人』で組んだ緒方拳が、史上名高い“人斬り半次郎”を天然系な憎めないキャラでノリノリ快演してて最高。ピックアップしたのは特に名台詞と言うわけでもなかろうが、見終わって思わず口真似したくなるようなすがすがしさと可笑しみがあって、実にイイのだ。「ああ、あんたぁ、よかおなごじゃああ〜」なんて言いながら、太地喜和子を押し倒しちゃったりするのよ。
作品自体は加藤泰高橋英樹コンビ作『宮本武蔵』にもつながるような全体に生真面目なつくりだが、緒方拳と沖田役の西郷輝彦のさわやかな存在感もあって、気持ち良く観られた。
なお、三隅監督は本作公開直後、1974年9月24日死去。実質的な遺作は監督の死から2週間後から放映が始まったカツシン主演のTV時代劇『痛快! 河内山宗俊(3話を演出)だった模様。結局、剣劇映画は実質、三隅の死をもって終焉したのかもしれない……。

あの頃映画 「狼よ落日を斬れ 風雲篇・激情篇・怒涛篇」 [DVD]

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*1:追記。その後、DVD発売。