『ロジャー&ミー』

昨年のクリスマスはふと思い立ち『素晴らしき哉、人生!』なぞ見て、ひとり涙していたのだが、今年はそういう気分にはならず。それよりも本年一躍「座右の人物」となったマイケル・ムーアの作品が無性に見たくなり、駅前のTSUTAYAで借りてきた。
まさしくボウリング・フォー・コロンバイン』の原点。もっとも、初期衝動に突き動かされた一気呵成に撮り上げた一編、というわけではなく、予想以上に内省的な印象。2年半という長期に渡って撮りためられ、編集を重ねたという地道な努力のたまものかもしれぬ。今年の5月に収録されたという音声解説がまた、沈痛といっていいほどディープな語りの連続で、胸に迫るものがあった。実際、生真面目な男なんだろうな、ムーアって。
それにしても事態が14年前の公開時よりさらに悪化しているという事実には怖気をふるうばかり。女好きクリントン民主党政権アメリカを好景気にしたんじゃないのか? そうではなかったらしい。いまも昔も、アメリカは、一握りの巨大企業とその眷属だけが私腹をこやし、貧乏人はいつまでたっても貧乏人という嘆かわしい国家なのだ。そして、さらに悲しむべきことに、グローバリズムってヤツは世界をアメリカ化することだ。日本なぞは数十年前から国あげてアメリカの後追いしているわけだから、全然他人事じゃない。
オレは毎年、アメリカ映画をなんのかの言って平均50本以上は見てきた。しかし、数を見ればみるほど、映画の背景に、そこかしこに顔を覗かせる、かの国の暗面ばかりが気にかかるようになった。しまいに、映画を見ること自体、気が重く、辛くなったのはこういう原因もある。物事、ネガティブな面ばかり見ても仕方ないわけだが、見えてしまうモノを見ずにすませようとすることほど難しいモンもないわけで。ムーアの作品は、そんな辛い面に真っ向勝負で挑みつつも、笑わせてくれるってのが、まったくもって「素敵じゃないか」(byビーチボーイズ)、ねぇ。