村上龍「愛と幻想のファシズム」

洞木「まず言えるのはね、こんな世の中で人を裏切る奴は、極限状況下ではもっと簡単にひんぱんに裏切るだろうってことがある」

高校生の頃、兄貴にすすめられて何度も何度も読んだ。経済で世界完全支配を目論むアメリカの超国家企業体に挑むハンターあがりのカリスマ・トウジが日本の独裁者の地位に登りつめるまでを追って話は進むが、主題はトウジを世に出す側近・ゼロという幻想に生きる男との友情と憎しみが錯綜する葛藤劇。物語の構造だけならなんとなく『サンダ−ボルト』とか70年代バディムービーに似てなくもない。
ゼロはトーゼン作者・村上龍自身の投影。憧れと憎しみの対象であるアメリカという巨大な存在に、チンケな日本人男子がいかにして立ち向かえばいいのか? そんなどうしようもない苛立ちが、平和国家・日本にファシズム政権樹立という政治的シミュレーション・ドラマに異様な味わいを与えている。
さすがは処女作「限りなく透明に近いブルー」で米兵の巨大なチンコをがっぷりフェラさせられて窒息寸前になったリュウ・ムラカミ、本作でもゼロがトウジによって精神的に追い詰められる過程が見事なまでにマゾヒスティックに描かれたり。
それでも、最後、ゼロはトウジに「勝利」する。それこそがまさに、「幻想」と呼ぶべきものなのだが。
一時、深作欣二だか息子のほうだかが映画化するって企画もあったけど、どうなったんだろ? 深作欣二なら撮れただろうけど、息子じゃダメだ。日本で映画化できるとしたら、崔洋一阪本順治あたりか? 「男」を撮れる監督が少なくなってるからねぇ。こういう企画でこそ、ゴジさんあたりに復活願いたいモンだが、99.9%無理だな(笑)ま、映画化なんて今さらしなくてもイイでしょうってことで。