「あなたには−わたしなんかよりずうっとテープのほうが大事なんだわ」
(中略)
「だけど、これはぼくの楽しみなんだ。昔っからの」
「おちんちんを引っ張って遊んでいる子供みたいじゃないの」
往年の喜劇俳優の貴重映像を悪妻に消された男。男の悲痛な叫びが、しみることしみること。
ディック作品には絵に描いたようなやたら悪妻や悪女が出てくるが、どいつもこいつもオタクの天敵、コレクター魂みたいなモノを足蹴にすることで、相手を支配しようとするやり口が露骨で、身に覚えある文系男子にとっては読んでてイタいこと多々。ディック自身、そういう女を憎悪しつつ、離れがたい性向があったんだろう。取り憑かれていた、というか。野郎も女郎も、悪いヤツほどよくモテる。
ディックは高校時代と大学に入った当時、読みふけった。いま読み返す作品はほとんどないが、妙にひっかかるディテールがいまだ、折りに触れて思い出される。
- 作者: フィリップ・K・ディック,寺地五一,高木直二
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1989/04/21
- メディア: 文庫
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そういえば、数年前、不慮の急病で亡くなった先輩が、電話でアドバイスしてくれたことがある。
「自分の進路に迷いが出たら、原点に立ち返るといいことがあるよ。
自分が中高生の頃とか、思春期に影響を受けた、本や漫画や音楽に、もう一度触れるとかさ。原体験を甦らせるんだよ」
先輩は冷凍庫で荷運びの仕事をしていた。いまオレは全身白づくめ、サニタリー衣を着て汗だくになって包装仕事をしている。まだまだ疲労困憊ばかりで読書はおろか、音楽も以前ほどゆっくり聴けず、テレビすらあまり身を入れて見られない状態だが、ようやく落ち着いてはきた。自分の時間を大事にして、いろいろ身辺を振り返ってみたいものだと思う。
そんなわけで、いま読み返してるのは筒井康隆(苦笑)いや、軽いモノしか読めないんですよ。先輩との「約束」はこれからゆっくりじっくり、果たしていくしかないなぁ。