『ザ・サスペンス みだらな女神たち』(はてなダイアラードラマ百選)

id:k-s1rさんからバトンを頂いたので、僭越ながら以下、なるべく手短にひとくさり。


『ザ・サスペンス みだらな女神たち』
1983年6月4日放映
放送局:TBS
製作:三浦寛
原作:勝目梓
脚本:池端俊策
演出:久世光彦
出演:ビートたけし樋口可南子、永島敏行、ジョニー大倉加藤治子ほか



<紹介>
うだつのあがらない町工場の男が、ひょんなことで大金を拾い、それをきっかけに黒い影が忍び寄り、乱れた家族関係が崩壊していく様を描く、ブラックな味わいのシニカル・ドラマ。
あらすじ等をくだくだ書くのはやめ。
町工場主の主人公は御存知、たけし。妻は樋口可南子、弟は永島敏行、妻の愛人はジョニー大倉、そして主人公の母親は久世作品の「顔」たる名女優・加藤治子。当時でも素晴らしいキャスティングであったが、昔はこういうドラマがドラマでも映画でも腐るほどあったような気もする。
たけし扮する主人公の優柔不断というより、商売も喧嘩もバクチもナニをやらせても半人前な、あまりにもふがいないダメダメ男ぶりが素晴らしかった。
いまや<世界のキタノ>として名実共に世界的映画監督となったビートたけしだが、実のところ、たけしの本領はやはりTVにある。というより、邦画界は一切、映画人・北野武には基本的に何の貢献もしていない。*1たけしは幾多のバラエティとドラマ、TV出演を通して、「撮られ方」を学び、その過程で演出術まで習得したのである。
ところで、たけしの好演もさることながら、本作は何より、<みだらな女神>そのものになりきった樋口可南子のエロエロぶりが見ものだった。ちょっとオツムは弱いが、尻軽ぶりは図抜けて人並み以上。夫のたけしの目を盗んでは、ふてぶてしいチンピラ役のジョニー大倉とべたべたと情交を繰り返し、挙げ句は真面目だけが取り柄のボクサーあがりの弟、永島敏行まで誘惑する。階段に腰掛けて、短いスカートの裾をぺろんとめくりあがらせて、股を開く。そして、うっすらにっこり、婉然と微笑む淫乱そのものな表情、当時小学校だった子供心に、強烈すぎた。
妻・樋口を弟・永島に寝とられたと知ったときの、たけしの世にも情けないむせび泣きまじりの嘆き節がたまらない

「お前、昔からオレのもの、みんなとっちゃうじゃないか! 女房までとりやがって!」

なお、母親役の加藤治子も、期待を裏切らぬ、だらしない姑ぶりでしっかり助演。向田邦子の名作阿修羅のごとく(NHK)で扮した不倫を続ける長女役の上品さを完全に捨て去ったような、場末のおばはんをそつなくこなした。
いまだビデオ化もされておらず、TBSチャンネル等でたまに再放映されるくらいのマイナーな本作だが、たけしの「役者開眼」が堪能できる一作である。たけしファンの方は、機会あれば、ぜひぜひ御一見を。
脚本は池端俊策 ベスト・シナリオセレクションII」三一書房刊)に「あばずれた女神たち」という題名で収録。脚本のややシリアスなムードを、久世監督はサラリと流し、ブラックユーモア風にまとめている。実はたけしのドラマ初主演作『刑事ヨロシク』(82年5〜8月)を手掛けたのも久世監督。久世演出が北野武作品に与えた影響についても、いずれ一検証があってもいい。久世氏本人に質問してみるのも手かもしれぬ。どのように答えるか、楽しみな気はする。


ちなみに、本作で初めて組んだ池端俊策とのコンビで、たけしはTBSにて、伝説の実録ドラマ3作、『昭和四十六年 大久保清の犯罪 戦後最大の連続女性誘拐殺人事件』(83年)『イエスの方舟 イエスと呼ばれた男と19人の女たち』(85年)『時代劇特別企画 忠臣蔵』(90年)に主演、役者としてキャリアアップを果たす。個人的にはこの3作品こそ、北野武映画の「原点」と考える。というより、これらたけしTVドラマ主演作を1本も見ずして、北野武映画を語るのは片手落ち! とあえて云っておく。*2
なお、フジテレビ制作金曜ドラマシアター 金(キム)の戦争 ライフル魔殺人事件』(91年)、さらにTBS制作『説得 エホバの証人と輸血拒否事件』(93年、山元清多脚本)も前3作に勝るとも劣らぬ力作。もっとも、この後はたけしが映画に完全に力点を移したこともあり、近年のたけし出演ドラマは、どれも正直云って納得いかぬ出来なのは残念。昨年企画された田中角栄が企画流れに終わったのがなんとも残念だ。
監督・北野武より、役者・ビートたけし愛する人間としては、秋公開の崔洋一監督の『血と骨』を座して待つのみである。


えー、ところでコレ、バトンを次に、どなたかに渡すんですよね? さて、どうしよう……よし、わかった! もし、よろしければid:nishiogikucho様、いかがでしょうか? お引き受け頂けると誠にありがたいのですが……。


*1:かろうじて、カツシンの右腕たる編集技師、谷口登司夫氏直伝による編集術の伝授くらいだろう。コレ自体は巨大な貢献ではあろうが、演出術を教えたような監督や映画人は見当たらない。

*2:ソフト化もされているので、TSUTAYAやGEO等、大型レンタル屋なら見つかるハズだ。