森田芳光監督版『阿修羅のごとく』は、向田邦子作品にあらず。

一言……ダメだな。
ナニが良くないって、演出も演技も、記号的で表層的すぎる。筒井ともみの脚本もオリジナルの設定をテキトーになぞっただけの、薄めた出来でしかない。向田邦子の作品世界はこんな薄手なモノじゃない。老若男女を問わず、「生理」にグサリと突き刺さる鋭い描写があってこそ、向田作品と言える。こんなのは向田邦子作品じゃない。森田芳光のただのやっつけ仕事と断定。
こちとら年輩者じゃねぇが、物心ついた頃から向田作品はじめ、<昭和のドラマ>で育ってるんだ、ナメてもらっちゃ困るぜ。
若人の皆さん、森田芳光監督による映画版を見て、コレが向田邦子ドラマだなんてくれぐれも思わないでくれたまえ。少なくとも『阿修羅のごとく』に関しては、『NHKドラマ人間模様』でオリジナル版を見ることをオススメする。チェックしていないが、DVDでBOXセットが出ているから、レンタルされていたりするハズだ。少なくとも、以前出ていたビデオがあるハズ。
それにしても、森田芳光って、こんなにつまらない映画監督だったっけ? いや、正直、どの作品も内容の「深度」に関してはお寒いモノが多くて、基本的に表層的/記号的な空間設定と人物把握で勝負するヒトではあったと思うんだけど、それ以上に<細部の趣味性>−セットや役者のちょっとした仕種、イントネーションの活かし方、はたまた画面構築における妙味といった余人の追随を許さぬ「センス」くらいはあったと思っていたんだが、どうやら見込み違いだったか?*1
和田勉の超イヤガラセ演出のほうが、森田芳光より上だというワケではない。おそらく一番の問題は、昭和50年代というあの時代ならではの空気感が何一つとして、真に迫ってこないコトにある。ロケ地とセットには、その場所ならではのムードがあり、時代性も感じさせて悪くなかった。となれば、問題は明らかに演出サイドにある。
女優4人について文句を云うのはあえて差し控える。ま、少なくともフカキョンはミスキャストだが、それ以上に、仲代達矢八千草薫の夫婦と4人の演技に、上手下手ではなく、ヒトとしての「たたずまい」の違いがありすぎた。しょせん「今のコ」でしかない4人が俗っぽすぎる、とかそんなコトではない。ただ、やはり生きた時代が違うと、ヒトはこれほどに立ち居振る舞いが決定的に変わってしまうのか、と改めて驚き、悲しみを覚えたという言い方をしたい。
くだくだ書いてきたが、結局、時代設定を変えず、原作ドラマのリメイクをやってしまったコトに一番問題があるような気がする。その割に、映像からレトロ感覚がほとんど伝わってこなかったし、決定的なところで「核」となる「様式」が構築し得ていない。失敗するコトにも失敗した、努力不足作とでもいったところか。ふかっちゃん(深津絵里*2小林薫となにげに好きな役者が出てたから、ちょっとは期待してたんだが、残念。
……仕事がらみでチェックせざるを得ず、DVDを借りてきて見たんだけど、ただの紹介記事だから、上記のような本音コメントは一言も書けないワケだ。書いても仕方ないし、字数自体全くないし。つうわけで、ウサばらしで厳しい評価を書いてみた。いや、実際、ダメな映画と思うけどね。もっと哀しいのは、この世にはコレ以下の映画がほとんどだというコトだ。特に邦画はね。オレみたく万事好き嫌いだけで生きてる人間が新作映画チェックが苦痛になるのはトーゼンだぁな。


*1:まぁ、『39/刑法第39条』で「コレは『羊たちの沈黙』より面白い!」などと、監督自ら放言していたのを読んだ時点で、才能的に見切りはつけていたんだけどね。もともと発言につまらない空威張りが目立つヒトではあったけど、自分がジョナサン・デミ以上だとまで云うのは、かなり見当違いもはなはなだしいなと思った次第。デミ以上ならハリウッドなり欧州なりで、その才能を認知されているハズだしね。

*2:もぅ30女になったんだから、イイかげん「ドジでマヌケなカメ」((C)堀ちえみ)じみたお決まり演技からは脱却すべきだけどな。コスプレ喫茶だかメイド喫茶の店員じゃないんだからよォ。ふかっちゃんに限らず、最近の女優のしゃべりは皆、「アセアセッ」って、口先だけの早口ごまかしトーキングスタイルだからげんなりする。セリフは魂の言葉だッ! 腹の底からダマシなしで声を出せッ!