馬込<第1回>:西馬込〜南馬込〜大森

いやいやそうなんです、土日は陽気につられ、久々にバカ歩きを敢行したのであります。
今回の散策地は、坂道の多い東京のなかでも屈指の名所、馬込。古く九十九谷と称されたは伊達じゃない、右見ても左見ても坂道だらけ。マニアなタモリや山野勝氏の足元にも及ばぬ若輩のやつがれも、6年前に訪ねて以来、心中ずっと再見参を期していたのがようやく実現できたという次第。
昼過ぎに家を出て、新宿・ヨドバシカメラで写真を受け取り、りんかい線で大崎まで出る。大崎のホームのベンチに座って、写真整理をしてから、ひと駅戻り、五反田から西馬込へ。駅前には馬込文士村の案内図が。後でも触れるかもしれないが、この案内板は各所に散在していて、役にも立ったが、文士旧宅の番地がきっちり明記してなかったり、曲り角等の目印や目標物の指示の仕方もあいまいだったり、意外とアバウトなつくりにもなっていて、結構悩まされた。
まずは池上本門寺参拝の近道にもなっている第2京浜沿いにある操車場上にかかる陸橋へ。実はココ、6年前に訪ねて以来、個人的には都内最高と決め込んでいる陸橋。当時はココを使ってまた自主製作の8ミリ映画でも撮るつもりだったのだが、久々にまた<秘めたる想い>が再燃したりして。地元の方からすればナンでもない場所かもしれないが、眺望といい、ロケーションといい、素晴らしいと思う。なんつっても本門寺は帝都の裏鬼門を守護する寺ですからして、そんないわくつきの場所へ誘うかの陸橋の存在感たるや、オレ的妄想ワールドではビンビン来るモンがあって。
陸橋上では、見事に黒光りした大きなカラスが、誰かが捨てたか置いたらしい焼そばのカスをついばんでいた。カメラを向けても逃げようともしない。ますますイイ画だ! とひとりほくそ笑み、嬉々としてシャッターを切るオレを、けげんそうに散歩中らしい年輩夫婦が見ていた。
本門寺下の坂道に出ると、車の排気ガスらしい、なにやら異臭がたちこめていた。もしかしたら、葬儀でもあって火葬の煙が流れてきていたのかもしれない。
正月帰宅した時ふとした拍子で、田舎では最近まで「山埋(さんまい)」*1と称して死人が出ると墓場でなく山や野辺に埋めたり焼いたりしていた、と父母から聞かされ、そのことがずっと頭に残っている。実は実家の近くにも墓場と焼き場があって、オレが幼児の頃までは葬儀があるたびに、たまに異臭が漂ってきていたことがあったらしいのだ。きょう嗅いだ臭いは、かすかな記憶にあった異臭を思い起こさせるものがあった。まぁ、単純に谷あいの地ゆえ、排気ガスが充満していただけかもしれぬが……ちと脱線した。
本門寺に上がらず、住宅街のなかの道をそのまま行くと貴船上に出た。本門寺を坂横に見おろせる、ひろびろした眺望にうれしくなる。ここらはこうした坂道がそこかしこ、数えきれないほどある。そんなわけで、マニア的にはうきうきワクワクで歩いていたが、近所の人から見れば、単純に怪しいだけだったろう。
ふっと興が乗るとあっちの坂道こっちの坂道とのぼりくだりしているうちに、自分がどこにいるやらいまいちわからなくなってしまった。これまた毎度のこと、地図の見方もテキトーすぎるので気付けば目的地から遠ざかってしまっているというのはしょっちゅうなのだ。
それでも何とか、例によって朝日新聞連載「江戸の坂」どおり、蓬来坂、汐見坂、鐙坂、ちょいと戻っておいはぎ坂とたどりつく。おいはぎ坂は坂下に社、横は墓地という妙なるロケーションにひっそりとある、これまた名坂。都内の神社では珍しくないが、社内は小さな公園にもなっていて、ブランコがあったり。坂上から見たら、そのブランコが誰も乗っていないのに揺れて見えたり…嗚呼、つくづくこういう場所を使って8ミリ映画が撮りたかった! 今からでもいい、撮ってみたくもなった。デジタルビデオでもいいから回してみようか?
この後、湯殿神社なる小さな社に寄り道した後、区立郷土博物館(入館無料)に入り、受付のおじさんに頼んで、<馬込文士村・散策マップ>のコピーをもらう。これで迷わずに済む! と喜んだのもつかの間、その後次の南坂にたどりつくまで、ずいぶん時間がかかってしまった。第2京浜まで出てしまったのが失敗だったのだが。
通りすぎてしまった八幡神社の横を進むと南坂。坂下は第2京浜の馬込坂。交差点を横切り、交通局横の引き込み線跡から二本木坂。大体、<江戸の坂>の記述どおり歩いているつもりなのだが、時折、周囲の風景に気をとられすぎるのか、迷うというか、時間がかかることたびたびで困る。
二本木坂上は新幹線&横須賀線。線路と高架脇はこれまた坂道、橋と歩道橋がずっと連なる。歩道橋上にはカメラを抱えた人の姿も見えた。いわゆる鉄ちゃんこと鉄道マニアな方だと思うが、時間をおいて通り過ぎていく新幹線を見ているうちに、オレもにわか鉄ちゃんと化し、カメラを構えたりまたやめたり、あやしい行動とりながら、通り過ぎる新幹線を待ちぼうけ。夕闇がたちこめるまで結局そこに居座り、夕陽をバックに何枚か撮影したりしていた。このあたり、散歩するには、つくづく絶好のロケーションだと思う。
本当は大森駅周辺の坂もたどる予定だったが、今日はとても時間がない、と判断。それでも、とりあえず大森駅まで出ることに。薄暗くなった住宅街を抜けていったが、あまりの坂道の多さに唖然。住むには悪い場所とは思えないが、日々の生活は上り下りばかりで大変な面はありそう。オレ自身は一時的でいいから、住んでみたくて仕方なくなってもいるのだが。余裕ができたら、ウィークリーマンションでも借りてみたりすればいいのかな?(<相当にバカ)
馬込銀座近くに古本屋があったので、ちょいとのぞくと山田風太郎先生の文庫本かまぁまぁな値段でいくつか出ていたので買うことに。「伝馬町から今晩は」「おれは不知火」(250円、ちくま文庫)「神曲崩壊」(250円、朝日文庫)「婆娑羅」(200円、講談社文庫)「妖異金瓶梅」(500円、扶桑社文庫)風太郎先生は主要作制覇計画中。
側に学習塾があり、お子さん待ちらしいおじさんとおばさんがふたり。大森まで出られるか不安だったので、おじさんに道を聞いて確認してから、少々肌寒くなった通りを歩いて大森駅へ。吉野家でまた牛丼でもかっこむか、と思ったが見つからないのでやめ、電車に乗り込んだ。
その後、蒲田に出た。蒲田で降りるのはおそらく91年以来、だから13年ぶり(笑)ファーストキッチンで軽く食ってから、古本屋だかオモロイ店はないかと探したが、特になし。ビデオ屋モンティ・パイソン・アンド・ナウ」(500円)を買ったくらい。
そういや、駅前で自転車に乗ったイラン人らしい青年が警官に呼び止められ、「いろいろちゃんと確認してから聞かなきゃダメよ!」なんて怒っていた。そのとおりだ。

*1:04/03/15追記:父からは「山に埋める」と書く、と聞かされたのだが、どうやら勝手に当て字していたらしい。れっきとした臨済宗の寺の三男なのだが(苦笑)。正確には道楽ざんまい等と同じ「三昧」みたい。検索して頂いた方に感謝。