『新・座頭市 II』第5話「歌声が市を斬った」


原作:子母沢寛
脚本:新藤兼人
監督:勝新太郎
音楽:村井邦彦
制作:勝プロ/フジテレビ


座頭市勝新太郎
キク:中野良子
仙太:川谷拓三
堀田新九郎:待田京介
亀屋常右衛門:北村和夫
タミ:大塚道子
かわうそ権八:小田部通磨
留吉:蟹江敬三
老婆:小林加奈
江戸の吉兵衛:谷口寛
ほか



座頭市勝新太郎)は、道中、気のいいスリ仙太(川谷拓三)と道連れになった。すぐかっこをつけたがるのは悪いくせだが、陽気で涙もろく、“善良な小悪党”の仙太は、どこか憎めぬ可愛げのある奴だった。二人はとある一軒のはたごに泊まった。隣室で事件が起こった。年増の門付女タミ(大塚道子)が、娘キク(中野良子)に乱暴を働こうとしたやくざ留吉(蟹江敬三)に殺されたのだ。市はその場で留吉を血祭りに上げた。水のみ百姓の夫が大地主の亀屋常右衛門(北村和夫)に借金を残して死に、そのかたにキクが妾に取られそうになり、タミは昔習い覚えたボロ三味線を抱いてキクと村を飛び出したのだった。やがて街道には、不思議な取り合わせの三人の旅芸人の姿が見られた。市の三味線でキクが歌い、仙太が投げ銭を集めて回っているのだ。
 市が心をこめて弾く三味線よりも、どこでもキクの美貌が野卑な街道がらすの注意をひいた。その度に悶着が起きた。心のやさしいキクは彼女の純潔を守ろうとして、獣欲に飢えた男どもに暴力をふるう市を責めた。自分がいるから市さんは暴力をふるうのだ。それに借金をして逃げまわるのはいけないことだ。キクは自分からすすんで亀屋に行く決心をした。それがどういうことか小娘のキクにも分かりすぎるくらい分かっていた。キクの声音には、市の反対をはねつけるりんとした響きがあった。
 表面は深く仏教に帰依し、“白梅禅師”の法名を持つ亀屋常右衛門の屋敷では、日夜神仏をもおそれぬ酒池肉林の愛欲絵図が繰り広げられていた。キクもほかの多くの女奴隷同様、性の饗宴のいけにえに供される運命だ。そこへ、市と仙太が、幕府から派遣された“市川検校”とその従者の“仙太郎”に化けて乗り込む。まんまと化けおおせたと思ったら、屋敷には、市とは宿敵の浪人堀田新九郎(待田京介)が、用心棒として雇われていた…。