『新・座頭市 I』第10話「娘が泣く木枯し街道」

原作:子母沢寛
脚本:新藤兼人
監督:太田昭和
音楽:村井邦彦
制作:勝プロ/フジテレビ


座頭市勝新太郎
お光:今出川西紀
八造:金内喜久雄
おしず:川口敦子
武次:水上保広
うめ:近江輝子
鯛屋 角蔵:織本順吉
女中 ハナ:沢田雅美
おもん:井上明子
次郎左衛門:藤尾純
黒潮伊三郎:森幹太
ほか


 冷害で年貢が納められず、農民八造(金内喜久雄)は、無慈悲な庄屋次郎左衛門(藤尾純)に女房おしず(川口敦子)をそのかたに連れていかれた。連れ戻すには五両の金がいる。娘お光(今出川西紀)の身売りより他に取るべき道はない。お光にも身売りがどういうことかよく分かっていた。自らすすんで家の犠牲になろうとしたのには、苦境を傍観している恋人武次(水上保広)の意気地なさへのつら当ての意味もあった。なんとかしてやりたいのは山々だが不作続きに老母うめ(近江輝子)を抱え、武次も他人のことどころではなかったのである。
 お光を、銚子の茶店はたご「鯛屋」に五両で売る相談がまとまった。ところが、二足の草鞋を履く「鯛屋」の主人角蔵(織本順吉)はとんだ悪党だった。八造を甘言でいかさまばくちに引き入れ、身を切られる思いの虎の子の五両を巻き上げてしまう。八造は首つり自殺した。折から「鯛屋」には座頭市勝新太郎)が投宿していた。悪い奴に出てこられた。市は角蔵に、お光と五両ばかりか、死んだ八造の供養料の名目で十両のおとし前をはき出させた。市とお光の道中がはじまる。せめてもの感謝の気持ちにと自分の体を投げ出そうとする、哀れにもいじらしいお光に、もっと自分を大切にするものだ、と真顔で大喝する市だった。
 村へ帰ると、おしずは木更津の遊里に売り飛ばされていた。行きがかりで、市はお光を連れて木更津へ行く。おしずは遊女屋「黒潮楼」の主人伊三郎(森幹太)の情婦におさまっていた。おいしいものを食べて、きれいな着物を着て、今の気散じな生活が性に合っている、もう野良仕事などまっぴらと、せっかく迎えにきたお光におしずはけんもほろろに毒づく。紅おしろいを塗りたくったあさましい姿を実の娘に見られ、心の中で恥じ入っているおしずの血を吐く思いが、市にはよく分かった。そこへ、市を追ってやってきた角蔵一家が「黒潮楼」に草鞋を脱ぐ。伊三郎との間に市をだまし討ちにする相談がまとまった…。