再録・「悪党パーカー」に捧ぐ!

午前5時。街はまだ明けきっていない。やせこけた野良犬が一匹、残飯をあさって路地をうろついていた。建物と建物の間の薄暗い路地には、野良犬以外にいきものの気配はなかった。
 背の高い男が、長い大きな手をだらりと両脇にたらし、不自然な姿勢で、壁にもたれかかっていた。顔には、なんの表情もうかんでいない。血の気もない。こめかみの上あたりに、きれいな小さい穴がひとつあいていた。血はかたまって、泥絵具のようにこびりついていた。
 男は、パーカーだった。それ以上に彼の名前を知っているものもいないし、気にかけるものも一人もいないだろう。
 パーカーは、死んだ。



 むむ、なんだこれ? なになに、えッ、パーカーってあのパーカーかよ? 死んだ? まさか! 冗談じゃねぇぜ、新作出たのかよ、もしかして、ネタバレやってるのか、こいつ? 畜生、殺らしてやるッ!
 …なぁんて、上記の一節読んだだけで息巻けるのは、よっぽどなマニアだけでしょうし、大体からしてマニアなら、「ああ、あれか」なんて苦笑するはず。心配御無用、喜ばしくもパーカーはいまだ健在なり。
 上記は犯罪小説史上名高い、リチャード・スターク原作「悪党パーカー 人狩り」(ハヤカワ・ミステリ)の初版あとがきから。訳者の小鷹信光先生が「いつかシリーズが完結するとしたら…」と、シリーズの終幕を空想したもの。ミステリ翻訳に特に強いわけじゃないが、小鷹先生の翻訳ものくらいは何冊も読んでる。好きなんですよねぇ、こういう歯切れいい節回しが。