追記:2009年時点の記事なので情報に抜けがあります
“犯罪機械にして野獣”……ピカレスク・ロマン最高峰!
『悪党パーカー』シリーズ映画版、一挙上映
1.『殺しの分け前 ポイント・ブランク』(67年)監督:ジョン・ブアマン/出演:リー・マーヴィン、アンジー・ディッキンソン、キーナン・ウィン、ジョン・ヴァーノン
2.『汚れた七人』監督:ゴードン・フレミング/出演:ジム・ブラウン、ジーン・ハックマン、アーネスト・ボーグナイン、ドナルド・サザーランド
3.『組織』監督:ジョン・フリン/出演:ロバート・デュヴァル、ジョー・ドン・ベイカー、ロバート・ライアン
4.『スレイグラウンド』監督:テリー・ベッドフォード/出演:ピーター・コヨーテ
5.『ペイバック』監督:ブライアン・ヘルゲランド/出演:メル・ギブソン、グレッグ・ヘンリー、ジェームズ・コバーン、クリス・クリストファーソン
リチャード・スターク(ドナルド・E・ウェストレイク)が生み出した犯罪小説史上最高の悪漢、それが<悪党パーカー>。ファーストネームは誰も知らない、タフで非情な一匹狼。水も漏らさぬ犯罪計画を立案し、仲間を集め、計画を邪魔する阻害要因は容赦なく除去、計画者と用心棒の両方を一手に引き受ける“犯罪機械にして野獣”、それがパーカーという男。男なら惚れずにいられぬタフガイ中のタフガイだ。本シリーズは1962年の初登場以来、長期に渡る中断を挟み、現在まで22作が世に出されている。
最初の映画化は第1作「悪党パーカー/人狩り」(62年)を映画化した、『殺しの分け前 ポイント・ブランク』(68年)。監督は鬼才ジョン・ブアマン。デビュー作『5人の週末』(65年)が『特攻大作戦』撮影時、英国に滞在中だった俳優リー・マーヴィンの目にとまり、いきなりハリウッドで彼の主演作の監督に抜擢された。フラッシュフォワード&バックを駆使した、見るたびに謎が深まる、眩惑的な映像構成で現在もカルト的人気を誇る犯罪映画の傑作だ。もっとも、撮影された当時は製作者にも「意味不明!」と理解されずソッポを向かれ、オクラ入り寸前、主演のマーヴィンの制止でようやく劇場公開されたというエピソードもある。結果は大好評で、日本でもその年の興収ベストテンに入るヒットを記録したが、今となっては作品の内容ともどもミステリーな現象といっていいかも。
何を考えているのか得体の知れない悪漢役は、晩年に至るまでリー・マーヴィンの十八番。パーカー役は彼以外考えられないほどのハマり役だったが、原作者スタークは映画化でイメージが限定されるのを恐れてか、パーカーの名前を映画で使うことを拒否したため、『ポイント・ブランク』での役名は“ウォーカー”となった。(30年後、メル・ギブソン主演で『ペイバック』として再映画化が実現したが、この際の役名は“ポーター”)。
これには裏話があり、かのジャン=リュック・ゴダールがシリーズ第6作「死者の遺産」(65年)を滅茶苦茶に翻案して『メイド・イン・U.S.A.』(66年)なるワケワカな映画(笑)に仕立てたことに、スタークが激怒したからだという。この情報を教えて下さった新田隆男先生によれば、さらにスタークは後年、『メイド・イン・U.S.A.』の全米での権利も自ら買い占めて、米国では同作を実質オクラ入りさせてしまったとのこと。なんて因業親父なんだ!(でも拍手!)
さて、スタークの思惑をよそに、悪党パーカーの映画化はその後も続く。翌68年には、当時黒人肉体派スターとして売り出し中だったジム・ブラウンを主演に、『汚れた七人』(原作はシリーズ第7作、66年)が映画化された。ブレイク前のジーン・ハックマンが『フレンチ・コネクション』に先駆けてしぶとい刑事役に扮していたり、犯罪仲間連中がアーネスト・ボーグナイン、ドナルド・サザーランドはじめ“イイ顔”な個性派アクターで固められているのが見どころなB級アクションの佳作である。
第3作「犯罪組織」(63年)の映画化が『組織』(73年)。監督は『ローリング・サンダー』(77年)等硬派な男気アクションで知られる偉才ジョン・フリン。主演は名優ロバート・デュヴァル。犯罪者役としては線が細いという批判もあったが、頼もしい相棒役のジョー・ドン・ベイカーともどもしたたかな悪党ぶりを見せている。仇の組織のボス役は、当時このテの犯罪映画で悪役づいていた大スター、ロバート・ライアンで、原作以上とも言える貫禄で魅了する。
シリーズ第14作「殺人遊園地」の映画化が『スレイグラウンド』。邦題は原題のまま。ニューロティックな怪優ピーター・コヨーテ扮する“悪党パーカー”は期待させてくれるのだが、実は出来の悪い失敗作。肝心の遊園地での格闘シーンは終盤にちょっと出てくるだけ、後はコヨーテが延々と失敗した強奪計画をめぐり、ウジウジと逡巡する様を見せられるだけという代物なのだ。脚本家が原作シリーズのマニアなのか、会話の端々でマニア向けとしか思えない目配せが聞けるのは面白いのだが、熱烈なファンならチェックすると面白いかも? という程度の出来。
『ポイント・ブランク』から30年後、第1作「悪党パーカー/人狩り」を再映画化したのが『ペイバック』。監督・脚本は『L.A.コンフィデンシャル』でオスカーを受賞した脚本家ブライアン・ヘルゲランドで、彼の監督デビュー作。ギャングどもは携帯ではなく黒電話で話してたり、70年代アクション映画を彷彿とさせる殺伐たるムードが最高だ。SM好きのギャングと中国系娼婦(当時はまだブレイク前だったルーシー・リューが怪/快演)、チャイニーズ・マフィア、組織のどこか間の抜けたメンバー等々、脇役も魅力的な顔がそろう。
主演はメル・ギブソン。『マッドマックス』『リーサルウェポン』で売った切れ者のメル・ギブなら充分やれるはずの役だった。ところがどっこい、ここでウラ話が。メル・ギブはスターとしてナイスガイのイメージを守りたいばかりに、プロデューサーとしての権限を発動して、監督ヘルゲランドを現場から追い払い、メロドラマなシーンを撮り足してしまった。ラッシュを見て、「オレってコレじゃただの悪党じゃん!」と思ったらしいが、何を考えてたんだか。「悪党パーカー」なんだよ、お前は!
良質なケイパー(強奪)ものである「悪党パーカー」シリーズは現在もなお、多くの犯罪映画に影響を与え続けている。クエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』『パルプ・フィクション』はその好例。ロバート・デ・ニーロ&エドワード・ノートン競演の『スコア』(01年)などは、題名からして「悪党パーカー」シリーズのオマージュ的作品と言ってもいい内容であった。内藤陳先生の言を借りれば「見ずに死ねるか!」な本シリーズで、心ある諸兄はぜひとも男気を注入してもらいたい! 押忍!