どうする、おい!

今夜は特別に、脳内名作再現劇場。

「何考えてるかわかるぞ。オレが6発撃ったか、5発かと考えてるんだろう? 
 実を言うと、こっちもつい夢中になって、数えるのを忘れちまったんだ。
 でもこいつはマグナム44といって、世界で一番強力な銃なんだ。
 お前のドタマなんか一発でふっ飛ぶぜ! 楽にあの世まで行けるんだ…運が良けりゃな。
 さぁ、どうする、おい!」

ダーティハリー』より、クリント・イーストウッドの名台詞。もちろん、吹替版。ヤスベェこと故・山田康雄のかすれ声を脳裏に甦らせて、音読してみてちょうだいな。
ちなみに、ヤスベェと言えば『ルパン3世』なわけだが、イーストウッドの時は声の調子に渋さと重みが加わって、グッとハードボイルド。ルパン3世はもうひとつの持ち役、ジャン=ポール・ベルモンドに近いノリでアテていたという。


サンフランシスコからうって変わって、舞台は東京・下町、とある料亭の一室。3人の初老の男がちびちび酒を呑みかわしている。結婚式帰りで礼服のまま。

「そういえば、仲間(の子供)は女の子が多いね」と、花嫁の父。
「そうだな」そういえば、という風情で傍らの友人、すなわち本作の主人公。
「昔から『一姫二太郎』って言うねぇ。あれはなんだね、新婚当時は女のほうが盛ん、ってコトかね?」花嫁の父、にやにや言う。
「うーん、どうかねぇ」もっぱらふたりの聞き役に回っていたもうひとりが首をひねる。この男、いつもボケ役、けっこう美味しい役回り。
「するとお前のトコなんておかしいじゃないか」すかさず、ツッコむ主人公。
「何が?」
「ふたりとも男ってのは、ありゃどういうんだい?」
「そりゃ女房に聞いとくれ。こう見えてもオレは見かけ倒しなんだ」へらへらと笑うボケ役の男。
「ウソつけ!」フン、と鼻を鳴らす花嫁の父。
「はっはっは」3人、思わず大笑い。
そこへ料亭のおかみさん登場。まるまる肥えていかにも健康そう。
「皆さん、ようこそ、ようこそ。センセ、ずいぶんおひさしぶりねぇ」
「うん、しばらくだ」実はかなりの“面食い”な主人公、不美人にはいたって無愛想、うなずくだけ。
「ホントに今日はおめでたいことで……」
「おい、おかみさんは何人いる?」主人公、今度はおかみさんにツッコミの鉾先向ける。
「あたし? 亭主ですか?」そこは年の功、意味がわからなくても、とりあえずボケておくおかみさん。
「亭主はともかく……子供だよ」
「ああ、こども。3人」
「みんな男の子だろう?」すかさず断定、花嫁の父。
「ええ、よくごぞんじ」おかみさん、驚いた様子。
「それがわかるんだ」うなずく主人公。
「うん、そうだな」
「そうでなくっちゃ、おかしいやね」残るふたりもしきりに相槌。
わっはっはっは、と3人そろって大笑い。
「なんです! もう」おかみさんはおかんむり。
「いやぁ、いい体格って言ってるんだよ。おちょうし、もう1本」
「はいはい。なんだかいやですねぇ」
「わっはっはっは」

別の作品だが、また同じような料亭のシーン。顔合わせはひとり変わっただけ。トシの離れた若い後妻をもらった男が、皆からからかわれている。

「お前、服んでるのか、あれ?」と主人公、粉薬を服用する仕種。
「ああ、オレはそんなものは、いらない」言われた相手の旦那(上記作品のボケ役)、ぶすっと返答。
「そんなこと言って、実は服んでるんだろう?」たたみかけるツッコミ上手の主人公の友達(上記作品では花嫁の父役)
「ウソだと思うんなら女房に聞いとくれ」
と、そこへ噂の主の奥さん登場。あでやかな物腰で一同に一礼して夫に目で合図。
「あなた。もう……」
「お、もうそんな時間かい」と、さっきとはうって変わって、そわそわ腰を浮かせる件の旦那。
「あなた。あの……あれを」お薬を服んでくださらないと、という仕種。
「ああ、そうか」気まずそうに仲間ふたりの顔見やり、旦那は奥さんといそいそ御帰宅。
「わっはっはっは」残されたふたりはにやにや、笑いがとまらない。

どっちも巨匠・小津安二郎の監督作品から。とにかく同じようなシチュエーションが多いんで、どれがどれだかわからなくなるんだが、上記2作はそれぞれ『彼岸花』『秋刀魚の味』だったと思う。
そういうシーンをピックアップしてるからだけど、はっきり言って小津映画は18禁じゃないかと(笑)。思いっきりオヤジ趣味。つうか、ある程度トシいかないと笑うに笑えないシーンにこそ、小津映画の真の魅力はあるような気がするね。
こたつでみかん、TV囲んで一家団欒、あつ〜いお茶の一服が身も心もあっためる冬、小津映画鑑賞にふさわしきシーズン、到来です。
(「こんな紹介ならしていらんわ!」<天の声by小津先生)