ペトラ・フォン・カントの苦い涙

世に映画作家は数あれど、「自壊」する男女を描かせて、ファスビンダーの右に出る者はなし。デビュー作の題名どおり、まさしく「愛は死より冷酷」なり。
同作は五幕の場面のみで構成された、非常に演劇的なつくり。ぷっくり顔のハンナ・シグラの毒婦ぶりよりも、ヒロインのペトラを演じたマルギット・カルステンセンの自壊ぶりが凄まじいのだ。それよりも恐ろしいのが、ヒロインが妄執で自壊していく様をじりじり見せるファスビンダーの残酷な演出であるコトは言うまでもなし。げに、天才は恐ろしい。