恐怖、恐怖だ。

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真夏の夜の風物詩、今宵は背筋も凍るホラー映画で納涼満喫! 
読んで&見てタメになる、永久保存版ガイドです。





★一口にホラー映画といっても、何がコワいかは人それぞれ。というわけで、以下ジャンル別にオススメ作品をチョイス。あえて有名どころを中心に選んでみた。レンタルビデオ屋に足を運ぶ前に、ぜひともご参考あれ。


●定番中の定番! 昔なつかし日本の怪談モノ


「うらめしや〜」の決まり文句も今や死語、お盆も過ぎてしまったが、怪談話は不滅。浴衣に団扇、明かりはローソクだけで御覧いただくとムード満点。見てる途中でナニか出ちゃうかもしれないが。

 まずは日本人なら一度は見たい和製ホラーの最高傑作東海道四谷怪談(59年、中川信夫監督)。ごぞんじお岩さんで有名な怪談を映画化したきわめつけの一作。「うらめしや、伊右衛門殿……」の名文句、お堀の戸板返しと名場面のオンパレード。古き良き日本の美学の極致はコワいながらも感心しきり。

 おなじく怪談モノでは『牡丹灯籠』(68年、山本薩夫監督)も見ておきたい。美しき女幽霊との情事に溺れて身も心も果てる浪人の悲劇を、妖しく恐ろしく描いた艶なる佳作。男なら一度は憧れるシチュエーションかもしれぬ。

 『怪談・蚊喰鳥』(61年、森一生監督)なる隠れた怪作もオススメ。江戸下町を舞台に、性悪女に入れ込んで色欲に狂ったあげく、生霊と化す双子の按摩(船越英二が二役を熱演!)の怨恨劇をじりじりと描く。「死者よりも生きている人間のほうが恐ろしい」という、人の世の真実がおぞましい。

 このあたりの昔なつかし怪談ものをまとめて見たい方は、今月の時代劇専門チャンネル(スカイパーフェクTV!)を要チェック。8月3日からなんと45日間に渡って「日本の怪談」映画を一挙放映。化け猫から「怪談・累ケ淵」まで、コワい話が盛り沢山。




●平成日本の新たな恐怖! Jホラー


 オウム事件、神戸大震災そしてバブル崩壊による大不況。最近はさらに原因不明の暴力&殺人事件まで続発。いわゆるJホラーブームは、不安な平成日本を映す鏡なのかも。

 ブームの立役者は天才脚本家・高橋洋。彼が監督・中田秀夫と世に出した、鈴木浩司のベストセラーの映画化『リング』シリーズ(98〜00、3作)の大ヒットは記憶に新しい。「呪いのビデオが人を殺す」という新手の都市怪談が様々に形を変えて恐怖を呼ぶ。松嶋奈々子、中谷美紀仲間由紀恵(+深田恭子)と若手美人女優が拝めるのも楽しく、彼女らが恐怖におののく様には怖がりながらもついニヤニヤしてしまう。

 高橋&中田の強力コンビの第1作『女優霊』(96年)も要チェック。撮影所にかつての女優の幽霊が現れ、様々な怪事件が巻き起こる。ふっと上を見上げると天井の暗がりに女の顔が浮かんで……といった描写がコワい本格的な幽霊映画で、心底震え上がる。現在、高橋洋による続編『女優霊2』が製作中でこちらも完成が楽しみである。

 近年、欧米で”第二のクロサワ”として注目されているのが黒沢清『CURE』(97年)は催眠暗示で普通の人々を殺人鬼に仕立て上げる青年(萩原聖人)と彼を追う刑事(役所広司)の対決を描いた前代未聞のサイコホラー。アメリカでも高い評価を受けた。

 オススメは不条理ホラー『降霊』(00年)。偶然誘拐された少女を連れ帰ってしまった録音マンの夫(役所広司)と霊視能力がある妻(風吹ジュン)。混乱の末に少女は死んでしまうが、その後も幽霊となって夫婦につきまとう。だらりと黒髪たらして部屋の隅に立ち、はたまた腕だけ首にまといつかせたり、その登場の仕方と間合いが絶妙で、うっかり見ると悲鳴連発かも。
 最新作『回路』(01年)はいまだかつて誰も見たことがない新手の幽霊映画。近日ビデオ発売される(詳しくは別頁を参照)。



●見ずにホラーは語れない! アメリカンホラー


 さて、今度は外国モノ。まずは70年代アメリカンホラー。これを見ずに現在のホラー映画は語れない。9月公開のドキュメンタリーアメリカン・ナイトメア』(アルバトロス・フィルム配給)は、そんな70年代アメリカンホラーの素晴らしさを、名作を世に出した監督たちの証言を元に検証するという興味深い一作。こちらを見て頂くとより理解が深まるが、とりあえずその予習代わりに名作をご紹介。以前見たことがあるという方も、いま見直すとまたひと味違うコワさを感じられるはず。

 まずはナイト・オブ・ザ・リビングデッド(68年、ジョージ・A・ロメロ監督)。死人が蘇り生きた人間の肉を喰らうという悪趣味な内容は今なお衝撃的。11年後公開された続編『ゾンビ』(79年)も全世界にセンセーションを巻き起こした。こちらは世紀末になってゲーム化(「バイオハザード」)されてしまうほどいまだ多方面に影響を与えている。

 人の頭皮(=レザーフェイス)をかぶった殺人鬼がチェーンソーをブン回して襲いかかる悪魔のいけにえ(74年、トビー・フーパー監督)は全ての殺人鬼映画の金字塔的傑作。巨匠アルフレッド・ヒッチコックの名作『サイコ』(60年)のモデルにもなった実在の殺人鬼エド・ゲイン(当時まだ服役中だった!)がやらかした凶行を元に再現した人面ランプがおぞましい。夜明けに踊り狂う殺人鬼の姿は見る者全ての記憶に残るはず。本気でコワいものを見たい方にはイチオシ。

 得体の知れない殺人鬼が刃物で人を殺しまくるスラッシャー(=切り裂き魔)モノのハシリにして代表作が『ハロウィン』(78年、ジョン・カーペンター監督)。イケないSEXに走る女の子たちが、マスクをかぶった殺人鬼にお仕置きされるという今ではおなじみの設定はこの映画から始まった。名高い13日の金曜日』シリーズ(80年〜)は実はこれのパクリなのである。

 80年代のエルム街の悪夢』シリーズ(84年〜、6作)、そして90年代には『スクリーム』シリーズ(96年〜、3作)、『ラストサマー』(97年〜、2作)がヒットを飛ばすなど、アメリカンホラーはいまだ健在。だが、最近のモノはコワいというよりただのパロディなので、ビール片手にツッコミを入れながらじゃないとマトモに見れない。まあ、『ラストサマー』のジェニファー=ラヴ・ヒューイットみたく巨乳な白人ネェちゃんのコスプレ乱れ姿だけしっかり鑑賞するという、エロな楽しみ方もあるが。



●背中に忍び寄る恐怖! オカルトホラー


 ホラーといえばオカルトものも外せない。このジャンルのハシリは、悪魔の赤ちゃんを生む羽目になる女性の恐怖を描いたローズマリーの赤ちゃん(68年、ロマン・ポランスキー監督)。ニューヨークを舞台に、都市に生きる人間の不安感をいちいち逆なでするような神経に障る演出は今なおコワい。

 こうして70年代、名作エクソシスト(73年、ウィリアム・フリードキン監督)オーメン(76年、リチャード・ドナー監督)など、空前のオカルトホラーブームが巻き起こる。エクソシストは昨年ディレクターズカット版が再公開されてまたも大ヒット、話題を呼んだ。ヒロインの少女(リンダ・ブレア)の首が回転する有名な場面はじめ、音響がリニューアルされたこともあって恐怖感は倍増している。
 ミレニアムを前にした99年にもこのブームは再燃。シックス・センスM=ナイト・シャマラン監督)、エンド・オブ・デイズアーノルド・シュワルツェネッガー主演)といったホラーが話題になった。『シックス・センス』は幽霊映画としてもよくできているが、コワいというより孤独な中年男(ブルース・ウィリス)と少年(ハーレイ・ジョエル・オスメント)の友情ドラマなので、怖がるより前に思わず感動してしまうかも。



●幽霊&お化けが大集合! 幽霊屋敷モノ


 幽霊屋敷モノの最高傑作は『ヘルハウス』(73年、ジョン・ハフ監督)。幽霊がわっと姿を見せるわけではないのに、終始一貫出るぞ出るぞと細かい演出で怖がらせられる。これまたホラー好きなら絶対外せない一作。

 巨匠スタンリー・キューブリックスティーヴン・キングの同名作を映画化した『シャイニング』(80年)もあまりにも有名。ジャック・ニコルソンの狂気の演技と廊下に突然現れる双子の少女といった計算された演出に背筋が凍る。

 イタリアンホラーの鬼才ダリオ・アルジェントサスペリア(77年)も幽霊屋敷モノに入れておこう。前衛的ロックグループ、ゴブリンのおどろおどろしい音楽に乗せて、ゴシック風の豪華なセットで残酷な殺人が次々に起こる。「決して一人で見ないでください」という名コピーを覚えている方も多いはず。オールドファンもぜひ再見を。

 近作ではCGによる悪霊の造形の凄さとショックシーンがおぞましくも見ごたえある『TATARI』(99年)がオススメ。



●気味が悪い? 人形アニメ


 最後におまけ、変わり種としてアニメ作品からもいくつか。先に紹介した高橋洋氏いわく、「アニメのように手で描かれたものは意外に怖くない」のだが、そんな氏でも一部の人形アニメには恐ろしさを覚えるそうだ。確かに、血の通っていない人形を微妙に動かして一コマずつ撮影するという、気の遠くなる細かい作業を延々とするあたり、門外漢からすると何やら不気味ではある。

 とりあえず有名な作品では『ストリート・オブ・クロコダイル』クエイ兄弟、86年)などはやはり不気味かも。人形ではないが、チェコのクレイ(=粘土)アニメ作家ヤン・シュワンクマイエルの作品はかなり気味が悪い。中でも『ヤン・シュワンクマイエル短編集』は必見だ。お子様がいる方は一緒に御覧になると反応が面白いかも。

 吸血鬼モノやエイリアンなど、まだまだ御紹介したいホラーは多いがとりあえずこんなところで。どれも品揃え豊富な大きめのビデオレンタル屋なら置いてあるはず。

 背筋をヒヤリとさせるホラー映画は、寝苦しき夜でも、ビールか冷酒片手にくつろいで見れば、必ずや一服の清涼剤となるはず。このガイドを納涼の妙薬がわりによろしければお役立てを。
[「増刊週刊実話」2001/09/17号]