ロバート・アルドリッチと来たらやっぱりハリウッド50年代映画作家を続けるしかない。黒沢清も尊敬するオールジャンル制覇の巨匠、リチャード・フライシャー御大をちょろりと御紹介。*1
昨年亡くなったロバート・ワイズと並び、サスペンスから大河ドラマ、はてはSFアクションコメディホラー……とジャンルを問わず撮りまくった、ハリウッドきっての万能派監督。
父は『ポパイ』『ベティ・ブープ』で知られるマックス・フライシャー。ウォルト・ディズニーとの確執でキャリアを潰された悲劇の天才だ。そんな父の比類なきヴィジュアル面の才能を受け継ぎ、息子リチャードも偉大なる映画監督として名声を得た。40年代から80年代、半世紀に渡って一線で活躍し続けたキャリアはダテじゃない、手掛けたスターは数知れず。オーソン・ウェルズ、カーク・ダグラス、ロバート・ミッチャム、アンソニー・クイン、リー・マーヴィン、チャールトン・ヘストン、マイケル・ケイン、そしてアーノルド・シュワルツェネッガー(!)……並べるだけで溜息モノ。
50年代黄金期だけでなく、60年代ハリウッドが斜陽期に入ってからは、海外でも現地で優秀なスタッフと組んで一級の仕事を残した。
荘厳重厚なる宗教寓話『バラバ』(62)、セミ・ドキュメンタリー風の野心作『ゲバラ!』(69)、黒澤明降板のトラブルもどこ吹く風と堂々たる大作を仕上げた『トラ・トラ・トラ!』(70)あたりがその典型。
いかなるストーリー題材も硬軟自在に描きわける手堅い演出が光るが、父親譲りの映像派としての才能もキラリと光る。
十八番のサスペンスでも実録連続殺人者ものの最高傑作『絞殺魔』(68)はフライシャー作品中でも突出。スプリットスクリーン等、当時最先端の視覚効果を駆使しつつも、融通無礙にして卑俗に走らぬシリアスな語り口に圧倒される。クライマックス、犯人役トニー・カーティスと検事役ヘンリー・フォンダの丁々発止の対決に心臓バクバク! ちなみに、吹替版では広川太一郎が一世一代の名演を見せてくれていた。同系の作品ではヒッチコックの『ロープ』の元ネタとなった上流少年ふたりの愉快殺人を描く『強迫/ロープ殺人事件』(59)は、オーソン・ウェルズの重量感あふれる演技が見もの。リチャード・アッテンボローがチンケなオッサン殺人鬼に扮する『10番街の殺人』(71)も見逃せない隠れた傑作。
語りだすとキリがないので、ジャンル別にオススメ作品を挙げていこう。
入門編としてはSFものがよさげ。特撮映画の歴史的名作『ミクロの決死圏』(66)はナノテクノロジー隆盛の現代科学を予見した映画史的重要作。カタいこと抜きにしても、美女ラクエル・ウェルチのピチピチのボディスーツを眺めてるだけでおつりがくる(笑)音響効果も凄まじい。
ベルヌの古典的SF名作を完璧に映像化した出世作『海底二万哩』(54)、近未来SF問題作『ソイレント・グリーン』(73)も必見。
男気アクションから入りたい向きには、これまたフライシャーの最高傑作と呼びたい、孤高の中年ドライバーの「深夜プラス1」ばりの脱出行を描く『ラスト・ラン 殺しの一匹狼』(71)*2、はたまたリー・マーヴィンを主演に迎え、老人と少年トリオの四人組銀行強盗団を詩情あふれるタッチで描いた本格派西部劇『スパイクス・ギャング』(74)が双璧。
シュワちゃん主演のコナン・シリーズ第2・3作『キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2』(84)『レッドソニア』(85)*3も手堅い出来映え。
いかなるジャンルにおいても、キャラクターごとの心の機微を人情味あるまなざしで追う細やかな演出はフライシャーならでは。
ある美女の栄光と没落の流転の人生を流離華麗に描ききる『夢去りぬ』(55)、犯罪都市に生きる警官たちの危うい生きざまを活写した『センチュリアン』(72)、純粋黒人の奴隷と富豪一族の数奇な運命をシリアスに見据えた人間ドラマ『マンディンゴ』(75)あたりは、そんな「フライシャー・タッチ」を味わうにはうってつけ。
キャリア終盤を感じさせぬ脳天気コメディ『おかしなおかしな成金大作戦』(87)や名作小説の映画化『ドリトル先生不思議な旅』(67)『王子と乞食』(77)、マフィアもの『ザ・ファミリー』(73)などなど、語りたい作品はまだ多いが、とりあえず今回紹介した作品の1本でもいいから見て欲しい。世にはまだまだ知られざる傑作と、それを創り上げた才人たちがいるってことがわかっていただけるハズだ。
<フィルモグラフィ>*4
1944:Memo for Joe
1945:Flicker Flashbacks No. 1, Series 1
1946:Child of Divorce
1947:Mr. Bell
Flicker Flashbacks No. 6
Banjo
1948:So This Is New York『ムコ捜し大騒動『(TV放映のみ)
Flicker Flashbacks No. 2 〜7
Bodyguard
1949:The Clay Pigeon
Follow Me Quietly
Make Mine Laughs
Trapped
1950:Armored Car Robbery『札束無情』(ビデオ発売のみ)
1951:His Kind of Woman(ノークレジット)
1952:The Narrow Margin『その女を殺せ』(ビデオ発売のみ)
The Happy Time
1953:Arena『ロデオの英雄』
1954:20000 Leagues Under the Sea『海底二万哩』
1955:The Girl in the Red Velvet Swing*『夢去りぬ』
Violent Saturday『恐怖の土曜日』
1956:Bandido『叛逆者の群れ』
Between Heaven and Hell『ならず者部隊』
1958:The Vikings『バイキング』
1959:These Thousand Hills『フォート・ブロックの決斗』
Compulsion『強迫/ロープ殺人事件』
1960:Crack in the Mirror*『鏡の中の犯罪』
1961:The Big Gamble『栄光のジャングル』
1962:Barabbas『バラバ』
1966:Fantastic Voyage『ミクロの決死圏』
1967:Doctor Dolittle『ドリトル先生不思議な旅』
Think Twentieth
1968:The Boston Strangler『絞殺魔』
1969:Che!『ゲバラ!』
1970:Tora! Tora! Tora!『トラ・トラ・トラ!』
1971:The Last Run『ラスト・ラン/殺しの一匹狼』
Blind Terror『見えない恐怖』
10 Rillington Place『10番街の殺人』
1972:The New Centurions『センチュリアン』
1973:Soylent Green『ソイレント・グリーン』
The Don Is Dead『ザ・ファミリー』
1974:Mr. Majestyk『マジェスティック』
The Spikes Gang『スパイクス・ギャング』
1975:Mandingo『マンディンゴ』
1976:"Disneyland"
The Incredible Sarah
1977:Crossed Swords『王子と乞食』
1978:Ashanti『アシャンティ』
1980:The Jazz Singer『ジャズ・シンガー』
1983:Tough Enough『ザ・ファイト』
Amityville 3-D『悪魔の棲む家PART3』
1984:Conan the Destroyer『キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2』
1985:Red Sonja『レッドソニア』
1987:Million Dollar Mystery『おかしなおかしな成金大作戦』
1989:Call from Space
、、、えー、ウチの<はまぞう>が調子悪いのかどうか、DVDも出てる作品もアップできないんですけど。。。マジでみんな廃盤? まぁ、新宿・渋谷・恵比須だのでかいTSUTAYAとか、やる気あるかでかいだけで全くない大型レンタル屋を探して下さい。ビデオ安売りショップでも売ってるかもよん。
ちなみに、フライシャーは御年89歳(!)でいまだ健在。アメリカでも日本からでもいい、誰かインタビューしに行ってくれ!!!
それにしても、最近は映画好きつうと新作だけ追っかけるだけで事足れりな軟弱ファンが増えているようだが、まーハッキリ云って、本気で好きなら古今東西の作品、何だって見てないとダメと思うワケですよ。
……いやさ、エラそうなコト書くオレにしてからが、偉大なる先達−双葉十三郎、石上三登志、山田宏一、宇田川幸洋等々−の万分の一も見てないけれど、この頃の若僧どもよりはちったァ努力はしてらァな! 少なくとも先に挙げた偉大な先達から万一話をふられても、話だけならついていく自信はある。
たかが映画されど映画、もはや趣味でしかないけれど、趣味でも頑張ればコレくらいはフォローできるワケですな、まる。