クラウス・キンスキー『キンスキー、わが最愛の敵』

「彼がひとたび吠えるや、ワイングラスは割れ、大山鳴動したのですッ!」


第三世界>完全魔境化計画協会ゲルマン支部長、狂才ヴェルナー・ヘルツォークによるナタキン・パパこと近代ドイツの魔人俳優、略して“魔優”*1クラウス・キンスキーのドキュメンタリーより。
身中に黒いハートを持つボンクラなら胸キュンしちゃう全編最凶最狂な男の一代記、見ずに死ねるか!

『アギーレ 神の怒り』の時だけどな、キンスキーの野郎、
現地の奴らめしょせん土人じゃねぇか死んでも知るかッばーろー、なんて、
平気で現地調達エキストラ兵士のドタマをガンガンかち割るンだよ! 
いやさ、土人ども、保険なんざトーゼン入ってねぇから賠償もナニもしなくて済んだからさ、別にいいんだけど、
さすがにオレにはメチャメチャクレームきてよ、冗談じゃなかったつぅの!」*2

なんて、監督ヘルツォーク自身による撮影現場での魔道外道ぶりが余すことなく語られて、もう。

「朝も深夜もお構いなく、部屋で全裸でおッ立ッて、発声練習と称して朗読だのナンだのカマシたりしてよォ……
あいつぁ、ホント、正真正銘のキチガイだったぜ!
見ろや! オレぁな、ヤツのキチガイぶり全記録は、手帳にみ〜んなメモってやってンだ、ほれッ!」

手帳には顕微鏡(虫眼鏡ではない)で見ないと読めないような、ミミズのたくりミクロン級小文字がギッシリ……
いやぁ、キチガイってばステキ!!! 
ヘルツォーク映画とは、要するに、キチガイによるキチガイの観察記録であった……と今さらながら思い知らされる一作。

「東京タワーでヘルツォークの野郎に会った。ヤツが言うにゃあ、
『<異境>つうかさ、第三世界とかにゃァ、まだまだオレっちが撮りてェモンが残ってると思うンだわ!』
だと。
ンなコト言ってたら、しまいに宇宙出なきゃシャシンは撮れねェ、ってハナシになるじゃねぇか! オラぁやっぱし、てめえの足はしっかり地面につけてよ、ダセぇかもしんねぇけどしこしこロードムービーこさえっぺぇ、と思ったな、まる」*3
ヴィム・ヴェンダース『東京画』

……蛇足ながら、ヘルツォークファンなら、『惑星アルカナル』って作品は必見かも。はるか未来、中世まんまな封建社会な異星に文明と民主主義をもたらさんとするありがた迷惑な地球人どもの姿を描くSF映画。コレ、監督がヘル公の盟友ペーター・フライシュマン『下部バヴァリア人の人間狩り』ほか)。で、ヘル公は地球の科学者だかナンだかの役で出てるンだけど、「異星の原始人どもに民主主義を教えたるンやッ!」なんて血気にはやる主人公を「まぁまぁ、のぼせたらアカン」なんてたしなめて、あげく、

「文明押しつけはよくないッ!」

なんて、マイク・ミズノ@『シベ超』ばりに仁王立ちして名言吐くンだわ。
『フィツカラルド』だの、第三世界土人搾取映画撮りまくったお前に言われたくないよ! 
なんてツッコミ入れたくなるね、マジ。
いやぁ、ニュージャーマン・シネマってサイコーですね! それでは、また次回。


*1:まゆう、、、ってアニメの小悪魔娘キャラみたいで響きだけは可愛くもあり、むぅ。

*2:脚色済み。

*3:脚色済み。