マーロン・ブランド『ゴッドファーザー』

マーロン・ブランドが亡くなったそうです。享年80歳。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0703/001.html
「好き」というより、リスペクトの対象であり、なんといってもオレが映画を本格的に見始める決意、そして映画を一生の「仕事」としようと心に決めさせるうえで、決定的な役割を果たした人でした。
ゴッドファーザー』のヴィトー・コルレオーネ地獄の黙示録』のカーツ大佐。前者は、何を隠そう、初めて借りたレンタルビデオ作品。また、後者は高校2年生の折り、テレビ東京木曜洋画劇場で見て、ブランドの異様なる存在感にすっかり打ちのめされ、感動のあまり見終わって入浴し、寝床につくまでずっと、知恵熱を起こしたがごとく、体中の震えが止まらずじまい。このとき、オレはナニがあっても、映画を一生見続け、できれば仕事としようと決意したのでありました。*1
映画を本格的に見るようになり、そして創り手を志して上京し、結局は映画について「書く」立場となったわけですが、そんななかで雑多な文献を渉猟するうち、マーロン・ブランドへの敬意は、正直、年々薄れていったような観もありました。傍若無人を超えた人非人的振る舞いを読み聞くにつけ、呆れるばかりだったからです。カツシンどころではなく、あまりにも巨大なる自我を抱え過ぎたのでは? などと、勝手な想像が働きもしますが、それにしても。
個人的にはTVの深夜映画で見た妖精たちの森、旧・文芸座で見たラスト・タンゴ・イン・パリが強烈な印象に残っています。『波止場』は残念ながらTVでしか見ていませんが、あれもまた、忘れ難い。晩年の無残に肥大した姿をさらした『D.N.A.』も、苦笑させられるより先に、余人と一線を画した「たたずまい」というか、妖気に包まれた姿に、ただ息をつめて眺め入るばかりといった具合。
一部文献では、ブランドは『ゴッドファーザー』前後あたりからセリフなぞ一切覚えようともせず、カンぺなしには仕事にならなかったりする有り様で、監督や俳優を怒らせ、嘆かせるばかりだったと書かれています。
ジャック・ニコルソンの評伝(「ハリウッドに歩いてきた男」だったか?)でもその実態が描かれてました。『片目のジャック』で競演を果たしたニコルソンは、かねて尊敬していた名優の傲岸無頼な体たらくを目の当たりにして、呆れ、怒りつつも、ブランドがいざセリフを口にした途端、周囲の空気を一変させる迫力と存在感に満ちていたのを見て、かの仁の余人には超えがたき才能をまざまざと思い知らされた……のだそうです。
この挿話なぞほんの一例、いずれにせよ、映画史に輝く革命的スターであったのは疑いなく、伝説的俳優として、永遠に語り継がれていくことでしょう。

「恐怖……恐怖だ……」
fromマーロン・ブランド地獄の黙示録

この映画史に残る名(怪?)場面なくして、今のオレはなし。嗚呼、もって瞑すべし。
合掌。


*1:今はそう思ってしまったコトをマジでちょいと後悔してますけど。コッポラによる完全版、立川シネマシティと日比谷スカラ座で2回しっかり見に行きましたけど、画質&音質が向上した以外は、内容的に改悪としか思えなかったしなぁ。93年だかにシネヴィヴァン六本木で公開された最初のコッポラ編集バージョンが一番じゃないかな? あとはTV放映された吹替版はかなり良好な出来かと。なっちによる最悪字幕でないという点も、かなりポイント高いんだよな。