かみそり半蔵@「新・御用牙」中巻・登鮫編『九起の清兵衛』より

「盗人を働くこともはりつけにかけられることも地獄じゃねぇ!! 自分自身と闘うことが地獄なんでえッ!! 裏切られようと嘘をつかれようと、だまされようと足蹴さりょうとゴミの中を這いずりまわるような、みじめな暮らしをしようともだッ。自分というものをしっかり心に持ってまっとうな人間として、自分だけは裏切らず、人を落とし入れず(ママ)それがいつでも起きている、立ち上がっているということなんだぜ〜ッ!! 
自分の生きざまは自分の心に映して自分で見ろ〜ッ!! 他人の生きざまを見たところで真似のしようがねえじゃァねえか〜!! じゃァ他人が七ツ転んで八ツ起きあがりゃァ自分も起き上がれるってぇ〜のかい〜ッ。他人のせいにするんじゃねえよ〜ッ!!
『災難に遭う時節は遭うがよく候。病む時節は病むがよく候。死ぬ時節は死ぬがよく候!!』
こいつは良寛てえ坊主の言葉だが、てめえのようなやつにはその意味すらつかみとることができねえだろうッ!! 人間てえのは誰だって不幸はいやだと考える。けどよッ!! その不幸もいいことだと受け取れって教えてんだよッ。つまりなァ、この災難はより大きな人間にしてもらうためのありがたい機会!! 病気をしてはじめて病気の他人の苦しさもわかりゃァ、人の情けってものも身にしみるッ。地獄をくぐった人間は死さえも恐れなくなるてえことを言ってんだよ〜ッ!! 
てめえなんざァ一度も地獄をくぐったことがねえくせに、九起の清兵衛などと逃げてるじゃァねえかッ!! 働きたくとも病気で働けない者がいる。死にかかっている者がいる。苦海(ママ)で春をひさいでいる女がいる。やろうとしてもやれねえ連中にくらべ、ピンシャンと五体満足で、それで人間として生きられねえから盗ッ人になるなんざァ、へそが茶をわかすほどにおかしいぜ〜ッ!!」

……どうでえ? これが正真正銘、江戸っ子の啖呵ってえモンよ!!
オレの座右劇画(「子連れ狼」以上!!)、小池一夫原作、神田たけ志劇画の最強コンビによる、スーパー同心「かみそり半蔵」シリーズから。“九起の清兵衛”のキャラ設定は「子連れ狼」の「渡り徒士」と似てる。けど、あちらは映画版『死に風に向かう乳母車』じゃ加藤剛がこなしたようにダンディズムの塊。こちらは♪バーブルバーブル〜ヒジョーにキビシーッ、財津一郎サンか、はたまた田中邦衛、あるいはバリバリ現役なら阿藤快あたりがふさわしいキャスティングかと(笑)単に、絵柄見て勝手に決めてるんだけどさ。あ、拓ボンでもいいな…って故人じゃん!
いかにも小池一夫らしい、流々朗々、とうとうたる説教節。思わず写経しちゃったけど、こンな説教、ずぅっと書いてて疲れへんのかいな、小池のオッサンは? 今、週刊ポストで連載中の「新・子連れ狼も、何のかんの言って面白くなってきたし、相変わらずお盛んなようで、何よりじゃわぃ。
ところで、この「新・御用牙」上・中・下巻、聞けばけっこうレアものだそうで、オレ自身も下巻はここ何年も機会あるたび探し続けているが、いまだに見つけらない。ま、オリジナル全巻持ってるからイイんだけどさ(近所の貸し本屋で買ったのだ!! 5千円くらいだったかな?)
カツシン主演の映画版(大傑作!! 若富主演の『子連れ狼』ともども、乞うDVD化!!)のほか、TVで二度、松方弘樹渡辺謙主演でドラマ化されたが、後者は最近までお蔵入りの憂き目にあっていた。渡辺謙のオスカーノミネートでようやく時代劇専門チャンネルにて日の目を見たわけだが、オレは録画し損ねた(泣)また放映されないかなぁ?