若山富三郎『番場の忠太郎』(中川信夫監督)

若山富三郎、新東宝時代の作品。御存知、長谷川伸原作、涙ナミダの股旅もの瞼の母。銀幕デビューした55年製作、若富さんも当時26歳、若いわかい。後年の大名優もまだ腰が据わってない感じで、演技も新鮮に見え。抜いた刀の鞘へのおさめ方だけは子連れ狼等で見せるのと同じで、あの刀さばきは若年以来仕込んだ芸のたまものと改めて確認できたり。当時の時代劇俳優は、実生活でも帯に刀をたばさんで生活したり、刀が腰にしっかり据わるよう努力を重ねたりしたんだそうで。いまそんな芸の研鑽を積もうとする役者なんてまずいないモンなぁ。
瞼の母」役はトシが12歳しか違わない山田五十鈴。それでもさすがは大女優、ソツなく海千山千、鉄火肌なおかみさんを巧演。他に、ひょっこり森繁久彌(!)が飄々たる八州見回り役人で登場したりと、競演陣はけっこう豪華。若富さんより19歳も年上、当時すでに45歳な名傍役・三井弘次が弟分やってたのはチト無理があったが。
三井の妹役には邦画黄金時代が誇る愛らしき花、桂木洋子。個人的にはべつに好きな女優さんではないが、こういう純情可憐なむすめは時代劇には欠かせない配役。
監督は名匠・中川信夫。もっとも、本作はいかにも早撮りでソツなく片付けられたようなムードぷんぷん、おなじみの紅涙さそう名場面もあっさりと流されていたり、あまりリキ入っておらず、名作と評するにはチト厳しい一品だったかも。まぁ、こちとら若き日の若富さんの貴重な姿が拝めたうえに、山田五十鈴との競演も見れたし、文句なんざないんですけどね。中川監督作品をいま見返すなら、やっぱ怪談ものを中心にチェックするのが一番無難な気がする。