『座頭市物語』第21話「湖に咲いたこぼれ花」

原作:子母沢寛
脚本:高橋二三、中村努
監督:井上昭
音楽:富田勲
制作:勝プロ/フジテレビ


座頭市勝新太郎
おゆき:小川知子
仙太郎:林与一
お妙:津山登志子
鳴滝の岩蔵:田武謙三
宗八:根岸一正
五兵衛:成瀬昌彦
お粂:来路史圃
ほか

座頭市勝新太郎)は、心中を図った一組の男女を救った。男は、江戸・日本橋の薬種問屋の手代仙太郎(林与一)。女は、土地の豪商の娘お妙(津山登志子)。商用で来た仙太郎と“わりない仲”になってしまったのだが、身分違いの恋を親が許すわけがなく、おまけに、仙太郎は店の金に手をつけて二度と江戸へは帰れぬ身。どうせこの世でそわれぬ二人なら、いっそ死んであの世とやらで…とは聞くも涙、語るも涙の悲恋物語にもらい泣きの市は、悪い了見をこんこんとさとし、有り金を残らず恵んでやった。どうせ、ばくちで取ったあぶく銭さ。ささやかな善根に、久しぶりに市の心はさわやかだった。しかし、人は見かけによらない。実は、仙太郎は、苦み走ったいい男と、たくみな弁舌を武器に、女をだましては宿場女郎に売り飛ばす、“お涙の”の異名を取る名うての女衒。早速、小悪党の本性を現した仙太郎は、あくまでも本人の本意になるようにしむけて、お妙を親分の鳴滝の岩蔵(田武謙三)に売る。年季は三年。
 旅を続ける市は、ある宿場で、心根のやさしい宿場女郎おゆき(小川知子)の一夜の情に、道中の疲れをいやされる。好きな男のためにすすんで沈めた苦界だから、泥沼稼業も少しも苦にはならない…。問わず語りのおゆきの身の上話に、市は、似たような話をどこかで聞いたような気がした。しかも相手の男の名は仙太郎。そこへ、流れ流れておゆきが、そして市がいるとも知らずに、当人の仙太郎がお妙を連れてやってきた。秘密を知られた仙太郎は、岩蔵をそそのかし、市を亡き者にする魂胆。それよりも何よりも、「お前さん、やっと迎えにきてくれたのね」と、くずのような男の仙太郎を信じて疑わないおゆきの無垢な心根がいじらしくてならぬ。いやいやながら市が、また、無駄な殺生をする時がきたようだ…。