Sidsel Endresen & 八木美知依@公園通りクラシックス 

詳細は八木さん御自身のブログ等を参照ください。
遅ればせすぎながら例によってメモなど。

ノルウェーと日本が誇る先鋭的音楽家が互いの奥義を尽くした術儀(あえて「技」でなく)合戦…となるかと予想していたが、意外や、余計な緊張感もない、落ち着き払った、穏やかな「音の対話」を聴けた。
一部は時折間をおく程度でふたりの即興演奏が続く。両者が見合って息を合わせるというよりも、Sidsel女史の声音と箏の爪弾きが自然に調和していくという風情。名古屋でのホーコン・コルンスタとのデュオでは思念・想念といったやや抽象性の高い音を放出していたSidsel女史だが、今回は八木さんが相手ということもあってか、各所で情感を漂わせた、柔らかな声音を発していたような。八木さんの演奏ぶりもいつになくリラックス、無理ない指さばきが優雅な調べを自然と奏でるといった具合で。

二部の冒頭は今回でも白眉と言うべき佳曲。ライヴに来られてた風来坊さんが「まるでサンディ・デニーのような!?」と驚かれたほどの完成された雰囲気でSidsel女史が朗々と歌い上げた。コレばかりは事前に決めていた曲だろう、と思い込んでた。
…ところが、ライウ終了後、八木さんからなんと今回も事前の決めごとはあえてせずに挑んだ完全即興と聞いて驚愕。
狂瀾怒濤の声/箏バトル…といった過激な音合戦にまでは至らなかったが、世界でも類例ない音世界を堪能できたという点で、充分に満足。うーん、次なる展開が今から待ち遠しい!!

二部は早々にホーコン・コルンスタがゲストで参加。足元に機材はおかず、サンプラー等は卓で調整していたらしい。リードが加わるだけで一挙にきらびやかな雰囲気も出たような。語弊があるかもだが、親しみやすいフリージャズというか(汗)個人的には嬉しいオマケと思ってた顔合わせが予想以上にじっくり長く聴けてありがたかったです。こうしたトリオ等、バンド編成でも是非聴いてみたい。ヴォイス・パフォーマンスならば吉田達也氏との競演なんてのも夢想してしまったり(笑)灰野敬二となるとちょっと凄みが出過ぎて違ってくるかもだけど。

今回は世界屈指のヴォイス・パフォーマンスを体感したワケだが、実際に唄うといった行為以前に、どこまで自分にしか出せない肉声を持ち得るかが、音楽家の才能を決めてしまうという事実も再確認。日本にも即興系でヴォイス・パフォーマンスをされてる方は数多いが、正直いってうわべの才気ばかりを誇るタイプが目立つというか、肉声そのものの強みで勝負できてる方は少ないのではないか。声の鍛え方が足りない以前に声としての魅力もパワーも弱いというべきか。

鈴木慶一氏、巻上公一氏はじめすでに実力と実績を誇る方がSidsel女史の演奏を見に来ていた。逆に、「声で勝負してる」なんて言われてる発展途上の方々は見に来られていたのか、どうか。奇妙なことに日本国内だけのハナシだが、Sidsel女史よりも知名度だけなら上回る方々も多いようで、世の中まちがってるなぁ、と思ったりするんですがね(汗)真に実力を見極めるという観点で音楽を聴こうとしない向きが多いんでしょうね。人様の考えや行動まではどうこうしようもないから、究極的にもどうでもいい、と諦めるしかないんだけど(苦笑)

そんな意味でも、八木さんの箏には八木さんにしか出せない声音が確かにあって、その強みだけでもペーター・ブロッツマンや北欧音楽家らとの競演が続いているのだと思う。思う、のではなく、先方から競演依頼が舞い込んでいるという事実が証明しているのだが。ジム・オルークやエリオット・シャープとの競演が続いているのもまさに同じくであろう。

…ところで、抽象的な物言いだが、Sidsel Endresen & 八木美知依の開放的な音空間、何やら海洋民族出身同士らしい大らかさも感じた。実はSidsel女史も八木さんも生まれ育ちは海に近い方だし、気質は似てらっしゃるんじゃないかと。音楽だけに限らないが、表現行為というものは思いがけないところで自分自身のバックボーンを露呈させるものだとも感じているので。。。