ジョニー・マー「喪服のランデヴー」(コ−ネル・ウールリッチ、高橋豊訳)

「ほかのやつらはみんな女を持ってるのに−」−彼は反抗的に顔をしかめた−「なぜおれだけが持てないんだ?」

モテない男の愚痴ではない。最愛の婚約者を、文字どおり「晴天の霹靂」で失った愛ゆえに狂気に陥った男の言葉だ。名文がたたみかけるように、流れるような筆致でさらさらと、ひとつの悲劇が別の悲劇を生みだしていく様が、哀感たっぷり、嫋嫋綿綿、めくるめくようなタッチで描かれる。世界は悲しい……そんな気分に陥ってしまう、あまりに魅惑的な奈落の底への誘い。オレが愛するミステリ、稀代の名作。
先年、野沢尚脚本、藤木直人麻生久美子主演、渡邊孝好演出により、NHKでドラマ化もされた。