G・K・チェスタトン「ポンド氏の逆説」(中村保男訳)

「会話というものは、軽やかで、あえかで、とるにたらぬものだからこそ、脆くてこわれやすいものだからこそ、神聖なのです。だから、会話の生命を縮めようなどというのは殺人よりも罪が重い。嬰児殺しのようなものです。生きようともがいている嬰児を殺すようなものです。その生命を呼び起こすことはできはしない。
死者から甦った者はただ一人しかありません*1すぐれて軽妙な会話は一旦こなごなになると、もう復元できやしません」

どぅぉォうかねェ〜ワトスンくんゥ? 世の中にこれほど気の効いた警句を発する人物がいると思うかねェ〜? (<ジェレミー・ブレットをアテる露口“ヤマさん”茂の口調で!)
チェスタトンの本業だった政治評論・文芸批評あたりにまでは残念ながら手が伸びないが、中学生の頃から小説だけは夢中になって大体読んだ。「ブラウン神父」シリーズはオレにとって究極の推理小説にして、最高の警句集。「ポンド氏の逆説」は「ブラウン神父」よりもさらに虚々実々珍妙怪々な逆説が飛び交う痛快短編集。時代は変われど、いまだ使えるフレーズもたんまり。
ちなみに、チェスタトン自身も相当イカレた人だったらしく、駅のキップ売り場でいきなり、

「きみ、キミぃ〜、コーヒーを一杯くれたまえ!」

なんて抜かして平然としてたりしたそうな。昔読んだネタ本集の受け売りですが。


*1:キリストのこと。これぞ文字どおり「釈迦に説法」。