歯欠け男@『脱出』(ジョン・ブアマン監督)

オレがこの世で最も珍重する映画作家ジョン・ブアマンの世評名高い問題作にして、70年代アメリカ映画の最重要作のひとつ(<断言)。本日、テレビ東京でありがたくも再放映。*1
野生児気取りの男ルイス(バート・レイノルズ)に連れられ、ダムの底に沈む渓流に川下りに出かけた都会男4人組が、途中、とつぜん典型的ホワイト・トラッシュな山男二人組に襲われる。山男の兄貴格は肥満漢のボビー(ネッド・ビーティ)をいきなり犯し、片割れの歯欠け男*2エドジョン・ヴォイト)にフェラチオを強要しようと迫る。ボビーを犯し終えた山男は満足げにズボンずりあげ、木にベルトで縛りつけたエドの側へ寄り、相棒の歯欠け男と顔見合わせて、にやつく。

「こいつをどうしたい?」
「こいつ、なかなかキレイな口してるぜ」
「たしかにそうだ」
「オレのために“祈って”くれねぇかな? ていねいに“お祈り”してくれよ(You're gonna do some prayin' for me, boy. And you better pray good.)」

野郎なら特に戦慄せざるを得ないおぞましい場面だが、コレを当時9歳でオカンに連れられて見てしまいトラウマになってしまったのが、かのクエンティン・タランティーノパルプ・フィクションで組織の黒人ボス(ヴィング・レイムズ)が変態に犯されるシーンは本作へのオマージュなのは有名な話。
ちなみに、上記の箇所はDVDの吹替版では以下のとおり。

「今度はおめえがやれ」
「こっちのほうがかわいい口をしてやがる」
「たしかにそうだ」
「今度はおいらのために張りきンなよ。たっぷりかわいがってやンかんな」

正直、いわゆる「名台詞」というよりは思い出したくない最悪の台詞だが、この物言い、どうにもイヤらしくて印象に残る。「尺八」みたく、昔ながらの隠語的な言い回しなんだろうか? 


なお、本作の吹替版について。DVD版(字幕翻訳:貴島久祐子/吹替翻訳:大野隆一)は以前一時発売されたらしい日本語吹替版ビデオの音声を収録しているとのこと。例によって、全体に直訳調*3。全体に英語字幕と照合しながら見られるDVDでは原語に忠実な直訳調のほうがベターという判断があるのかもしれないが、個人的にはTV版のほうが台詞がこなれてるように感じる。いつも思うことだが、往年より吹替台本のレベルは下がっているのではないか?
バート・レイノルズはTV版はおなじみ田中信夫、DVDではなぜか小林“ユル・ブリナー”修*4ジョン・ヴォイトはTV版は天田俊明、DVDは……スミマセン、クレジットがないので不明。ネッド・ビーティはTV版は石川進(だよね? 間違ってたらスミマセン!)、DVDは村松康雄
なお、保安官役でゲスト出演した原作者ジェームズ・ディッキーは大平透御大! DVD収録のメイキングによればディッキーは朗読でも鳴らした詩人だったそうで、朗々たる大平サンのお声はまさにハマりまくりで素晴らしい。
ついでなので、吹替版のクレジットを書き写しておく。

『脱出』
2004年5月31日テレビ東京午後のロードショー>にて放映
ルイス(バート・レイノルズ):田中信夫
エドジョン・ヴォイト):天田俊明
石川進
清川元夢
田中康郎
たてかべ和也

渡辺猛
北村弘一
村越伊知郎
石丸博也
大平透

演出:春日正伸
翻訳:進藤光太
調整:山田太平
効果:PAG
選曲:赤塚不二夫



*1:オレは間抜けにも冒頭30分、録画失敗してしまった(泣)7年前だかに放映したバージョンは入手済みなので構わないんだけど、なんか悔しい。

*2:役名は“Toothless Man”。名前はハーバート・“カウボーイ”・カワードというらしい。ちなみに、以下、ネタバレになるかもだが、エンドクレジットを見るかぎり、“Mountain Man”“Toothless Man”といった役名以外に山男側の被害者がいないから、のちに登場する崖上の男は一応歯欠け男だったと見てよいようだ。ジョン・ヴォイトは「違う!」と二度つぶやいてから、念のため、唇をめくって歯を差し歯にしているのを確かめているし。監督本人に確認したりとか、確証を得た方はいないのかな? 『ポイント・ブランク』もそうだったが、ブアマン作品には解釈に迷う場面が多くて困る(苦笑)。

*3:今回ピックアップした箇所は、上記を参照してもらえばわかるとおり。なぜかTV版のほうが直訳調。

*4:ついでながらジャケットではバート・レイノルズジョン・ヴォイトの役名が逆という初歩的ミスもあり。