溝口健二監督が宮川一夫キャメラマンへ挨拶がわりに投げかけた決まり文句。

1997年、大阪ヨーロッパ映画祭のため来日したアンリ・アルカン宮川一夫を表敬訪問した姿をおさめたドキュメンタリー『反射スル眼』を見た。日本映画専門チャンネルもなかなか侮れない。いきなりこんなレア映像を流してくれるとは。
撮影当時、アンリ・アルカン89歳、宮川一夫90歳。日仏映画界を支えたキャメラマンが、魑魅魍魎の世界を生き抜くうちに老いた身をお互いにいたわりあうかのように、短い出会いの時間を過ごす。ふたりに対する敬愛と思慕の念に満ちみちた周囲のはからいは、当事者でない観客にとっては大仰すぎると思える一瞬もなきにしもあらずだが、画面に見入っているうちに、いつしか、ふたりがまさに<映画の天使>であるかのごとく、いつくしみの眼差しで見てしまっていることに驚く。
欧日の映画史的人物の最初で最後の出会い、超貴重な語らいながら、はっきり言って、研究面で役立ちそうな発言はほとんどない。それでも、ふたりの真価を少しでも知る映画ファンにとっては、何ものにも替えがたい光景が映し出されているのは間違いなさそうだ。