『ニューオーリンズ・トライアル』

てなわけで、13時から半蔵門東宝東和試写室にてニューオーリンズ・トライアルを鑑賞。原題は『Runaway Jury』なんだが、なんつぅ邦題じゃ(苦笑)やる気ないのか、と思われても仕方ないと思う。
映画は意外や、それなりに楽しめたので我ながら驚いた。
法廷ものの人気作家、ジョン・グリシャム原作の映画化。米国の裁判は言わずと知れた陪審員制度なわけだが、実は、無作為に選ばれた人がすぐになれるわけじゃなくて、数十人の候補者が集められ、判事、そして原告&被告弁護士立ち会いの元、12人(+補欠2人)の選定作業が行なわれるそうだ。この際、原告&被告弁護士は、自分たちに有利な評決が行なわれるよう、自分たちに都合がよさそうな陪審員を選ぼうとする。そこで弁護士の懐刀的に暗躍するのが<陪審コンサルタント>という特殊な職業の男たち。法廷ものといっても、法廷のウラでの駆け引きがドラマの舞台になるのがミソ。
銃を乱売したあげく、大量殺人事件を引き起こすきっかけをつくったと目される銃器メーカーに賠償責任を求める裁判が始まる。被告側に雇われたのは、海千山千、悪名高き陪審コンサルタントジーン・ハックマン。そして彼に対抗すべく、陪審員にもぐりこんだジョン・キューザック、彼を支える謎めいた女レイチェル・ワイズ、そして原告側弁護士ダスティン・ホフマンの4人を軸に、それぞれに「勝利」を目指した息詰まる駆け引きが行なわれる。


見どころ、というか中心に描かれるのは、ハイテクを駆使し、あの手この手の権謀術策を弄して、陪審員を「篭絡」していくジーン・ハックマンとその配下の暗躍ぶり。
もっとも、こんな手の込んだコトするくらいなら、買収するなり、恐喝するなりしたほうがずっと手っ取り早いし確実なハズなんだが、まぁ、コレは「それを言っちゃあおしまいよ」ってヤツだな(笑)ツッコミだすとキリないんだよな、こういうの。
スリラーとしてもサスペンスとしても生煮えな印象で、正直、プロット的にも穴だらけだし、語り口も繊細さに欠ける。それでも見ていられるのは主役3人の確かな存在感、それなりの「踏ん張り」があったから。ジーン・ハックマンの嬉々とした悪役ぶり、それをソツなく受けとめたジョン・キューザックレイチェル・ワイズのトリオが織りなす、ちょっとした演技合戦は結構見ものなのだ。キューザックは巧いですよ、ホント。個人的にもオキニなレイチェルたんは、本作ではエラく華がない、地味じみな役で、「謎の女」なんて役どころの割にはちとミスキャストなんだけど、大仰なコトなぞせずにハックマン&ホフマンと渡り合ったり、落ち着いた演技はさすが。この人も巧い、つうか、どんな役でもそれなりにハマるようになっているね。


おっと、忘れちゃいけない、一番のウリはなんと、ジーン・ハックマンダスティン・ホフマンが長い俳優生活中、この期に及んで初競演してるってコト。なんつってもハリウッドが誇るふたりの名優の顔合わせだ、映画ファンとしては、やはり身を乗り出して見入ってしまったね。詳細は言わぬが、『ヒート』みたくアル・パチーノとデ・ニーロがカットバックされるだけ、なんて反則ワザは使ってませんから、けっこう楽しめるハズだ。
もっとも、ハックマンはともかく、近作のホフマンはどうにも演技に輝きがなくなったように思うので、本作でもどうにも物足りない。『レインマン』みたくなりきり演技はせずともよいが、迫力はもうちとあってしかるべし、だよな。モゴモゴしゃべるだけの小男にしか見えませなんだぞ。


それなりに脚本はイイかな、と思ったら、メインはジョン・ダールの力作『ラウンダーズ』のコンビらしい。なるほど、若僧が老獪な悪玉に食い下がる、ってネタは共通してるし、そこは書けている気がした。コレで監督がもちっと小粋なヤツなら傑作になったかもしれん。
撮影はいまやPTAの右腕となったワザ師、ロバート・エルスウィット。もっとも、今回は不完全燃焼の気配。今回は編集が、いかにも当世ハリウッド映画的に、とりあえずスピーディに細かいカットを切り貼りして、「性急さ」だけかもしだそうっていう「姑息」なやり口が目立ったので、どうにもイライラした。ウィリアム・スタインカンプなるベテランらしいが、他作品はともかく、本作はダメだと思う。法廷ものはただでさえ密室が舞台なのが多くなるのだから、映像面で凝らないともたないのだが、その点ではやはり物足りず。
5段階評価ならふたつ星が適当だろうが、役者の頑張りに免じて2.5くらい? 
あ、すいません、もうひとつだけ。端役でなんとジェニファー・ビールスが出ているんですけど、何の出番もつくらない(残しておかない)のは製作サイドの失敗だと思うぞ。まぁ、あんな役で出るほうが悪いのかもしれんが。