エリア・カザン、死去

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またもアメリカ映画界から「伝説」がひとつ消えた、とでも評するべきなのか。
愚生はどうも「食わず嫌い」が最近まで続いてしまっていて、恥ずかしながら彼の作品はさほど見ていないので、コメントなど恐れ多くてできないが、どれほど多くの俳優が彼の影響下にあることか、それぐらいは映画史をちょいとかじればわかること。逆にいっとくと、そのへんの基礎教養も頭に入ってなさげな評論家きどり風情の発言は信用しないがよかろう(もちろん、のほほんと書いたりするその仁自身も)。わかってもいない癖にコメントだけはとりあえずする、という不遜な振舞いは愚生にはとてもできない。ただ、あくまで記憶に残る「情景」等をひとくさり書き留めておく。


エリア・カザンで印象的だったのは、彼がアカデミー特別功労賞を受賞した時の会場の反応。マーティン・スコセッシロバート・デ・ニーロに付き添われて壇上に出てきた彼は、老齢のせいばかりでなく、震えているようにも見えた。それもそのはず、そこにいた相当数の俳優が彼に冷ややかなる眼差しを向けていたから。中継で抜かれていたシーンは、ティム・ロビンススーザン・サランドン夫妻とエド・ハリスエイミー・マディガン夫妻、すなわち米国映画界きってのリベラル派夫妻の怒りの形相、そして立ち上がって拍手するクリント・イーストウッドの姿であった(……)。エド・ハリスの姿は特に印象的であった。TVモニター越しで見ただけでさえ迫力が伝わってくるのだから、彼の演技力/表現力たるや、超一級なのではないか? と思うのだが、はたしていかに? そのほか、スティーヴン・スピルバーグが着席しながらも拍手を送っていたように記憶する。


赤狩り関連で思い出すのは、同じく当時、リベラル派から裏切り者のひとりと評されたエドワード・ドミトリク監督のワーロックリチャード・ウィドマーク扮する優柔不断な保安官が街の人々から畏怖されるヘンリー・フォンダ扮する流れ者の男と対決するという内容であったと思うが、印象的なのはウィドマークがフォンダと町民双方から、どっちつかずなスタンスを非難され、リンチにあい、思い悩みに悩む、というシーンが延々と撮られていたこと。おそらくはドミトリク自身の「立場表明」の意味合いも込められたシーンだったのであろうが、たまたま見た身にもその煩悶ぶりたるや、辛いものがあった。
イラク戦争終結で多少ゆるやかになったようだが、セプテンバー11以降の米国も、赤狩り以来というべき新しきタカ派、すなわちネオコンというおぞましき鬼畜どもが跳梁跋扈する情けない国と相成った。日本には伝わっていないだけで、第2、第3のエリア・カザンが生まれているのではないか? と不安な思いがよぎる。