黒澤明関連書籍

「パパ、黒澤明」黒澤和子、「天気待ち」野上照代(2作とも文藝春秋)を続けて読む。調べれば調べるほど、クロサワの“天皇”ぶりがひしひしと伝わってきて、アンチクロサワとして、さらに暗然たる思い深まる。
「パパ、黒澤明」黒澤和子
黒澤和子はもちろん実娘の方なわけだけど、実の父親と家族、周囲の人間のコトをよくもまぁ臆面もなくホメちぎること、ホメちぎること。ほぼ全編、和子さんの父・明と彼を愛した人々への異様なまでの「親愛の情」があふれかえっていて、読んでいてお腹一杯になるくらい。父娘ならではのとっておきトリビアなエピソードも語られ、衰えゆく巨匠のあわれさなども克明に綴られていたりはするので、興味深い点もあるのだが、全体にいささか興趣に欠ける。つうかさ、全編あとがき状態ってのは、読み物としてどうやねん? コレは編集者の責任だな。御本人の書き下ろしじゃなく、語り起こしにすべきだったんじゃないの? クロサワ譲りらしい、どこか気押されるようなパワフルな人柄は伝わってきて面白いと言えば面白いんだが。
「天気待ち」野上照代
こちらはクロサワ作品を影に日向に支えた女傑、野上照代女史による、堂々たる“天皇”および日本映画黄金期実見録。キネ旬主催の『待ち伏せ』上映会で御本人のトークを拝聴したことがあるが、御年70歳を超えるというに眼光炯々、悠然と落ち着き払ったその風情に圧倒される思いがしたものだ。あそこまでドスのきいたおばはんは見たコトないってくらい。黒澤組は何かというと感動して泣いたり、というエピソードばかりを伝え聞くのだが、男性陣よりもこの方のほうがずっと益荒男然、堂々としていらっしゃるように思えたり。まぁ、日本の映画現場のスクリプターには野上さんだけでなく女傑タイプが多いみたいなんだけど。内容は前述書に同じく全面的に“天皇”讃歌なのでかなり鼻白む部分はあるが、語り口がゆらぎない確信に満ちているので圧倒される。個人的には、天才監督・伊丹万作(戦後も存命なら、確実にクロサワ以上の名声を得たであろう)との関わりを興味深く読んだ。クロサワは成瀬巳喜男を最も敬愛していた、というくだりも新たな発見。


BGMはフィオナ・アップル「アクロス・ザ・ユニヴァース」/エイミー・マン「バチェラーNo.2」/ノラ・ジョーンズ「カム・アウェイ・ウィズ・ミー」/ザ・ポーグス「赤い薔薇を僕に」