ピーター・ガブリエル「The Drop」

セプテンバー11から4年。真面目くさったり、辛気くさいこと云うのはオレなんざボンクラ向きじゃないが、勘弁してやっておくんねぇ!
ピーター・ガブリエルの現時点での最新作「Up」のラストナンバー「The Drop」。いかにもはかなげで哀感に満ちみちた歌詞を、ピーガブは、今にも消え入りそうな声で切々と、ピアノで弾き語る。初めて聴いた時から涙を誘われた。なぜか、あのセプテンバー11の惨劇をどうにも想起させたから。
なんということもない一情景から、名状しがたい虚無感、茫漠感、あるいは喪失感が浮かび上がる、いかにもピーガブらしい様々な思索を呼び起こす歌詞。実際のところ、セプテンバー11などとは全く無縁な曲のようにも思える。
……でも、この曲を聴くたび、オレ自身の脳裏には、あの日、ワールドトレードセンターからバラバラと落ちていった建物の破片、そして人々の姿がなぜか浮かぶ。
一度、崩壊したものを取り戻すことはできない。落ちてゆくものを、ただ見つめるしかない。オレたちにできることは、こぼれ落ちたものを拾い集め、様々に思いをめぐらせること。それぐらいしかないのかもしれない。そんな絶望感と諦念に、とらわれる。
かつて時代の先端を歩んだ頃の活力こそ衰えたとはいえ、ピーター・ガブリエルのまぎれもない才気がうかがえる、そんな名曲だ。夜明けに聴くと、心に沁み入る。