東野英二郎『秋刀魚の味』

「魚へんに、豊か。鱧(はも)、かァ〜」

なんて、教え子が何の気なしに出した饗応の料理に、思いがけず舌鼓打つ、かつての鬼教師。妻に先立たれ、娘に家事を任せっきりにして頼りきってるうちに、嫁にやりそびれ、いまや父娘ふたりで老惨の身の上となった男の悲哀が、可笑しみのなかにも残酷に浮き彫りになる。
さみしい。ホント、さみしそうなんだ、あの姿。