『新・座頭市 I』第6話「師の影に泣いた」

原作:子母沢寛
脚本:犬塚稔、岩元南
監督:南野梅雄
音楽:村井邦彦
制作:勝プロ/フジテレビ


座頭市勝新太郎
伴野弥十郎丹波哲郎
弥生:柴田美保子
佐原の島吉:和崎俊哉
安蔵:三島新太郎
猪之助:原田君事
宇吉:美鷹健児
稲田の留蔵:久野四郎
多吉:松尾勝人
神田陣八郎:山村弘三
神田欽吾:三木豊
松田乙四郎:松本龍
おきよ:田中由香
ほか


 母の墓参りで久しぶりに生まれ故郷の笠間村に帰った座頭市勝新太郎)は、剣の師匠の浪人伴野弥十郎丹波哲郎)に再会した。弥十郎は、せっかくいい腕を持ちながら時流に乗る才覚に欠け、足の悪い妹弥生(柴田美保子)と、一介の道場主として相変わらず野にくすぶっていた。そんな弥十郎に仕官話が起こった。弥十郎は熱意を示す。別に名聞苦しさからではなかった。足が悪い上に兄が浪人では弥生にまともな縁談がない。不憫な妹の幸福のみを願う弥十郎のやさしさが、肉身の縁の薄い市にはうらやましかった。
 万事金の世の中、仕官にはそれなりの運動資金が必要だ。弥十郎金策の相談を受けたやくざ稲田の留蔵(久野四郎)は、「日頃、お世話になっている先生のこと、決して悪いようにはいたしません」と、したり顔に胸を叩く。一方、弥生には、自分ゆえの弥十郎の苦労が見るにしのびなかった。武家に嫁ぐだけが女の幸福ではない。弥生は、少女の頃から好きだった市に、夫婦になってほしいと哀願。市も弥生のために、仕込み杖もサイコロも捨て、堅気になる決心をする。だが、わけを聞き弥十郎は烈火のごとく怒った。「この、身の程知らずが。破門だ!」と、容赦のない罵声が飛ぶ。市は汚れた体で一時的にもせよ世間なみの幸福を願った自分を、心から恥じた。
 弥十郎の門弟の資産家の息子の神田欽吾(三木豊)が誘拐された。稲田一家の仕業だ。もちろん、弥十郎が頼んだ仕官の運動資金百五十両を捻出せんがための罠。そんなこととはつゆ知らない市は、神田家より百五十両で欽吾奪還を引き受ける。百五十両で弥生が幸福になれるのだ。愛する彼女へのせめてもの餞別のつもりだった。心の底で今も彼女のことを愛おしく思う気持ちには変わりなかった。悲しい誤解だが、市は、誘拐の黒幕が弥十郎だと錯覚。行きがかり上、弥十郎にももはや弁解の余地はなかった。二人の間には宿命の対決が待っていた…。