愛川欽也&澤井信一郎トークショー

スマホアプリで試しに録音してみたデータが出てきたので、起こしてみました。聞き取りづらい部分、意味が若干通じにくい部分もありましたが、あくまでも参考データということで、元の語りを尊重しつつ、当方の判断で一部補足しつつ、なるべく読みやすく構成してみたつもりです。記憶と違う...という箇所などありましたら、ご教示ください。お手柔らかに。
あ、G体にしてるのはもちろん当方です。◯、△はややうっとうしいんですが、自分が目が悪くて見づらいもので便宜上、印をつけました(恥)



2014/07/21:於池袋・新文芸坐
愛川欽也澤井信一郎トークショー
司会:小川晋(桜美林大学芸術文化学群 専任助手)
上映作品:『トラック野郎・御意見無用』『同・爆走一番星』


キンキン入場(ジョナサン! と掛け声)

―御意見無用の企画の段階からのお話をうかがいます…

愛川欽也(以下、愛):それより何より、今日映画館に着いて支配人さんから聞いたらおかげさんで今日も満員なんだって。立ち見が出るような騒ぎだっていうんでよかったぁと思ってね。むしろ(観客が)5人くらいだったらどうしようかと。そのときはさっさと帰ろうと思ってたんだけど。
しかもねぇ、本当にあちこちの映画館が潰れてんだよね。最初から縁起の悪い話になりますけどね。昨日の新聞でもね、三軒茶屋に3軒あった最後の映画館、三軒茶屋シネマといったかな、これが消えて。世田谷区界隈で育った人はみんなこの映画館で育ってるんだよね。
で、ウチのかみさんの、むかし原節子、今はうつみ宮土理って名前なんですけどね(観客笑)、彼女に聞いたら小学生の頃から親父さんに連れられて三軒茶屋の3つの映画館でいろんな映画を見てきたんだって。あれが全部なくなってしまうと新聞に書いてあって…本当になくなっちゃうんだよね。で、あっちこっちで映画館がなくなっちゃうのは何なんだろうって考えてね。ちゃんと理由があると思うんで、これは後で発表します。7分後くらいに(笑)
で、トラック野郎に関しては、ホン(脚本)は澤井ちゃんが書いてた。澤井(信一郎)さんが大体全部、手掛けて書いてた。その頃はシナリオライターですけども。東映専属でお仕事をしてらしたから、そういう意味では非常に…東映ギャラじゃなかったら、本当ならね、御殿が建つくらいのホンを書いてるんだけど(笑)、(澤井監督は)今でも普通の家に住んでる。
僕なんかも東映育ちだけど、東映専属でも何でもないから、僕はまぁまぁ澤井ちゃんよりはいいギャラを貰って。
トラック野郎も当たってたからよかった。当たんなかったら東映はひどいよ? (ギャラは)一気に倍くらいはいったかなぁ? そういうことがあるの。そのかわり当たんなかったら冷たいんだコレね。
で、最後は(トラック野郎シリーズは)10作で終わったんだけど、10作目の記念パーティーってのも新宿の京王プラザホテルの大広間でやったのよ。ここまで来たんだから11作目も頑張ろうじゃないかって大会があって。
今日初めて聞くんだけど…(パーティーで)11作目なので1作目のように初心にかえって…だとか何とかみたいな話をしてたら、いつの間にやら11作目はないって話になって。
アレは澤井さん、11作目に関して最終的に決まったのはどうだったの? あ、紹介しますね澤井さん。ここから始めちゃっていい? (11作目がどうなるか)あれは知ってたの?
澤井信一郎(以下、澤):いや、知らない。
◯愛:ホラ、これだもの。11作目は幻のシナリオがあるってのはホントだよね。
△澤:トラック野郎のブルーレイのおまけに付いてる。ブルーレイBOXが出たでしょ、あれに付いてます。
◯愛:へー、そうなの?
△澤:キンキンとこに行ってないの?(送られてきてないの?)
◯愛:来たと思うけど、ウチもいろんな連中が働いてるから誰か持って帰っちゃったかもしんない(笑)
△澤:幻のシナリオの名作が2本ついてるという。買ってない方はどうぞ買って下さい。
―愛川さんのほうに11作目はやりません、と連絡が来たのはいつぐらいのタイミングですか?
◯愛:ええとね、映画でも芝居でも1本終わると打ち上げをやるんだよ。何しろ当たってるドル箱のシリーズだから、さっきも言ったけど、(打ち上げも)大泉(撮影所)の傍の焼肉屋からスタートして京王ブラザホテルの大ホールだよ。そこで11作目もやろうねなんて話をして。
しかし、シナリオライターが知らなかったなんて知らなかったよ…俺たちより早いだろ、だって?
△澤:でも、急に決まったみたいで。
◯愛:この謎がなんともね。そっから話そうか?
△澤:いや、東映は決断が)早いんですよ。1作目のトラック野郎をつくってるとき、まだ当たるかどうかわからないときにシリーズ化を決めていて、2作目3作目を撮ろうと言ってたので、(東映は決断が)早いんですよ。
◯愛:それは言えるよなぁ。だってね、どっちかというと映画は社会派というか…(ところが東映は)『ふんどし芸者』だからね(劇場笑)社会派とどこもつながんないという。急に、社会の下半身<シモはんしん>になっちゃう。東映はそういうトコがあるよね。それがいいトコだと思うんだけど。
そんなふうで、知ったのは(10作目が)終わって3ヶ月くらいかな。大体、盆暮れと映画をやってた(公開してた)わけだけど、暮れは正月映画をやってたわけだから、これで終わってるのかなぁ、と。
―岡田(茂)社長も10作目のパーティには出席されていたんですよね?
◯愛:もち、出席してる。
―そのときに終わるという話は?
◯愛:いやいや。えらい勢いでさ、「次も続くから、キンキンもあちこちで遊んで怪我なんてしないように」とかそんなこと言われて。岡田茂さんも決めてなかったんだろうね。
△澤:そうだと思う。あんまり計画的にやるってわけじゃないからね。
(劇場笑)
◯愛:(いかにも東映)らしいよねぇ。
僕はね、もうちょっと睨んでることがあるんだ。あのね、トラック野郎が何でウケたかっていうことのひとつにね、はねるだけはねてた。
山田洋次さんがつくる松竹の寅さんは、教科書にしてもいいような、「修身」のような(感じの)映画ね。
ところがこっちは澤井ちゃんになんたってあの(鈴木則文)監督だから。「修身」を読んでない人のために撮るような映画
だけどね、トラック野郎の本当の敵は、向こう側に出てくる丹波哲郎とかそういう人じゃないんだよね。誰かと言ったら警察なんだよね。結局、トラックの運ちゃんが捕まっちゃうのは警察(官)。だから、パトカーはひっくり返るわ、しまいには婦人警官を桃次郎が犯しちゃったりね。(劇場笑)こんなのどっかまずいかな? と(東映側が)思ったってのはない?
△澤:いや、あるよ。(劇場笑)だって鈴木則文監督とトラック野郎の脚本を書くにあたって取材すると、真っ先に出てくるのは警察の取り締まりからどう裏街道を逃げるかって話で、それがないと生活できないっていう。11トン車に11トン積んでは生活ができない、11トンに16トンを積むから生活ができるんだと。そこからいくわけですよ。
◯愛:最初から違反してんだよね、それね。
△澤:違反が前提の生活。
◯愛:それがね、どっかで何かあったんじゃないかと思うよ。さすがの岡田茂社長もね。
△澤:(キンキン扮するジョナサンは)いま皆さん見たと思うけど、警察出身だからね。だから、2作目はボルサリーノ(田中邦衛)とのやりとりはキンキンはいい芝居だもんね。
何だかわからないけど、俺は警察官出身で最初は取り締まりしてたのに、そのうちトラック野郎の仲間入りしちゃった、という。で、(ジョナサンの奥さん役の)春川ますみさんはキンキンの田舎の警察の上司の署長のお嬢さんで、身分違いなのに結婚してやった、と言ってるわけだ。
◯愛:ずーっと女房に頭が上がらないというね。これは役も現実もね(劇場笑)敵はやっぱりね、桃次郎の恋仇よりも警察なんだよね。
…で、噂だよ。当時でもシリーズ10本のうち何本かは「こんなものずっとやられてるとちょっと困る」と苦情を言われたって。パトカー何台ヤッてんだって。みんな(壊れて)なくなっちゃうじゃないかと。警察のパトカーを借りてやってるわけじゃないんだし、大きなお世話だと思うけどね。やっぱりだんだん(警察の締め付けが)厳しくなったんじゃないのかね、澤井さん?
△澤:そうね、東映の自己規制(自主規制)もあるね。ふたつあって、ひとつは警察の車を蹴散らすヤツね。(そういう場面を)少し割り引こう、差し引く、控えようと。もうひとつはトルコ風呂(ソープ)のシーンで、これは子供連れで行ったときに子供に見せるわけにはいかないと。だから、お母さんは(子供を連れていくときに)10円銀貨(硬貨)を用意していて、そういう場面になったらチャリンと下に落とすらしい。
(劇場笑)お金やるから拾いなさい、と言って、子供が拾ってるうちに(そのシーンが)終わり、という。
◯愛:アハハハッ、あッ、そう。
△澤:だからトルコ風呂のシーンを少なくしてくれというのは、観客の子供たちの両親からのお願いがあって。
◯愛:ははぁ。でも、そこが一番面白いだろうにねぇ?
△澤:でも、キンキンは(シリーズ劇中ではソープへ)行ったことないじゃない、春川(ますみ)さんに抑えられて?
◯愛:そう。俺行きたい行きたいって言うんだけどね。「父ちゃん。ひさしぶり!」って言われて(迫られて)ね。
△澤:もともと「かもめのジョナサン」をもじって「ヤモメのジョナサン」という役名になったわけだけど、ジョナサンは子供が沢山いるのに、(女性には)俺は女房に死なれたやもめなんだと言って口説きに行ってはフラれるという、そういう名前(役柄)のためのヤモメのジョナサン。
◯愛:そう、本当に恋に縁薄き男なんだけど。たしかに俺、トルコ風呂行ってないんだよ。ところが俺の子供たちはみんな行ってるんだよね(劇場笑。劇中でジョナサンの子供たちを桃次郎がトルコへ連れていく場面がある)そんな映画は(ほかに)ないね。そうか、そういう点か。
―鈴木監督ご自身もトルコ風呂の場面は入れたがっていたんですか?
△澤:入れたがってた。だって、桃次郎のふるさとはどこかというとトルコなんだから。現住所がないんだから。
◯愛:トルコ風呂の場面は入れたかっただろうね。あと、もっともっと警察の車はひっくり返して燃やしちゃったりしたかっただろうね。
―ヤモメのジョナサンが警察官という設定は澤井さんが書かれたんですか?
△澤:そうだよ。取材に行って、乗せてもらったトラックの運転手から「こういう運転手がいた。おまわりさんをやってて厳しく取り締まってたのがいて、子沢山で食えなくてトラックの運転手になったら、仲間内でいたぶられたという話がある」という話を聞いた。これは面白いな、ということでキンキンの設定ができた。
◯愛:…だからさ、俺が思うにね、話を急に難しくしようってわけじゃないけれども、トラック野郎の精神には「野党」(野盗?)みたいな精神が流れていたから皆から支持されたと思うわけよ。政治的に言うとね。
ところが最近の新聞を見るとさ、NHKクローズアップ現代のキャスターの国谷裕子さんに自民党の幹事長(*正しくは官房長官)の菅、菅原文太のすがだけど、彼が出たときにかなり突っ込んで、最近の安倍さんの夢物語の「戦争のできる国になる」ということを突っ込んで聞いたら、それに対してだいぶNHKが怒られたらしい。NHKの会長ってのは安倍さんが突っ込んだ奴ですよ。ヌカ井(籾井)とか何とか、子分みたいな奴。それがNHKの会長。今ねぇ、私たちの周りはそんな国になっちゃったの。そうするとね、トラック野郎ってのはそういうことを予言していたような気がしてさ。澤井信一郎はなかなかのモンだね。この人はね。
△澤:俺じゃないです。鈴木さんだよ。
◯愛:鈴木則文(すずきそくぶん)さん。コーブンさんという人もいるし、俺はずっと監督と呼んでるけど、なかなかのモンだよね。彼にあったから、トラック野郎にはそのあたりもチラッチラッと出てたんだけど、近頃、この国の政治の中心は野放しになってるんだよね。まぁ〜やりたい放題だよ。そういうことをチラッと見せるような粋な映画をやりたいと思って、私も実は映画をコツコツつくってるんですけど、そんな話は私、後でちゃんとするけども。
映画ってのは大衆のものだからね。目線がね、上のほうから(なんてのは)…上から目線なんか用がないんだよ。東映のシャシンが受け入れられたのは、よくブルーカラーだったからなんて簡単に言うけど、ブルーカラーだけじゃないよね。ホワイトカラーもレッドカラーもさ、ウンコ色カラーもみんな一緒。時代がちょっと変だなぁ、というとき、ああいうお笑いの原点みたいな映画が、中身には陰をもったようなそんな映画が、だから支持されたんだと、俺は最近そう思うね。
△澤:トラック野郎の1作目と2作目を見て頂いた後の方が今ここにはいらっしゃるから、それに則した話をすると、1作目で夜中に道路脇に警察の人形が立ってるんですよ。あれ、ビクッとするんだよね。その話を運転手さんたちにしたら、彼らもビクッとするんだって。で、頭にくるという。頭にきたら殴りゃあいいじゃないの、ということから(『御意見無用』の劇中に)警察の人形をひとつふたつ3つと殴っていく場面ができた。3人目が本当の警官だったという(劇場笑)あれでね、トラック野郎のカラーができた気がする。
◯愛:そうだね。ホント、笑ってられないような背景が今の日本という国にはあってね。安倍さん、何で戦争が好きなのかね?
△澤:昔は泣いて辞めたような気が弱い男がねぇ…急に威張っちゃったねぇ。
◯愛:何かヤバいのを飲んでるんじゃないか、アレ? まむしとか?(劇場爆笑)
△澤:脱法ハーブとか?
◯愛:「脱法ハーブを服んで元気になった総理大臣」なんて映画つくんない?
しかしホント、おかげさんでね、トラック野郎が10本もできたっていうのは、少なくともこの映画を見て下さった皆さんのおかげでね。映画って興行だから、入らなかったらダメなんだよね。なんだか入ったねぇ。1本目から入った。1本目、忘れもしない、池袋の東映玄関のガラス戸が割れちゃったんだから。俺はそのとき驚いたね。映画のお客さんってのは暴徒化するときがあるんだと。ところがガラスが割れながら、そこの東映のコヤの親方も東映も喜んでるの。これはすごい、久しぶりだって。
△澤:1本目からだんだん人気がなくなっていったというね(笑)
◯愛:1回ガーンとあがって、あとは止まっちゃったんじゃないか? 東映だよ。
△澤:オレなんか1本書いて15万だよ? 。ずーっと15万。当たっても同じ。
◯愛:(頷いて)ずーっとなんです
△澤:オレ、社員だから。
◯愛:社員は上げちゃいけないよ? 外(外部)のほうがいいよ。愛川企画室に来なさい。(劇場笑)でも、ホントに当たるってありがたいことだね。
△澤:(なかなか)当たらないよ(笑)
◯愛:東映岡田茂さんが決めたこと(企画?)じゃなくて、こんなに入るんだって。岡田茂さんは深く考えて、「よし、ますますもってパトカー10台潰せ!」とかそんなことを言ったわけじゃなくって、映画は自然と支持されてるということだよね。やっぱり、お客さんだなぁ。ね? 今日もたくさんのお客さんが来てるけど。近頃映画館ってときどき行ってもガラガラなんだよな。皆さんよく来ましたねぇ? 遠いトコからわざわざ…遠いか近いか知らないけども。どうもホント、ありがとうございますよ。
…さて、何の話をしてたっけ? どうなんだろう、今なんで日本映画からお客さんがいなくなってきちゃったんだろう? この頃、何が当たってもあまり映画館が喜んでないんだよね。ときどき入るっつうと決まってこう何か、ワケのわからない人間の怪獣みたいなのが出てきて、人間が怪獣になるわけない。いや、俺だって昔はロバくんの中に入ってたんだけどさ(劇場笑)それよりもっとCGのほうが巧くなっちゃって。CGも昔より安くなったんだよね。アメリカ映画もそんなのばっかりじゃないねぇ。そんなの俺は見に行かないけどさ、何回でも生き返る化け物みたいな人間が主人公、そんなヤツいるわけないじゃないかっていうね。みんな1回だよ死ぬのは? 騙されちゃダメだよあんなのに。俺のときは3回はやるぞとか、つまりそういうのに夢があるわけないんだよ。何なんだろうな、でもそういうのが一般には当たる。
あとは…よくわかんないけどAKBTPPとかさ、そういうねえちゃんが。たしかに可愛いよ。でも、バカがそういうのを誘拐したり何かしたりしてさ、バカを相手にしてさ。そういうのも悪いとは言わないけど、よかぁないよ本当に。もうちょっとこう…いまふっと思ったんだけど澤井ちゃん、今日はあれじゃない、お客さんの年齢が高くない? 
△澤:高いよ。トラック野郎を封切り時代から知ってるのが3分の2くらいだね。
◯愛:そうなんだよ。この人たちも普段…テレビでは(AKBみたいなのを)見るわね。揃って足をあげたりするのを見て…ま、可愛いしさ。で、ふと隣でお茶漬けすすってるかあちゃん見ると、「もういいや」…なんて思う、そういう生活がずっと続いてるわけよ、何十年も。だから3回も生き返るようなスーパーマンみたいな人間じゃないし、そんな映画も見に行きたくもないし。
じゃあまあ標準語にも飽きたから、そういう番組にも飽きたから関西弁の番組でも見ようというと…いま東京はね、大阪みたいなテレビ番組ばかりになってるの、関西みたいな。
この中にも関西の人いると思うけど、俺、関西弁嫌いなんだよ!(劇場笑)何かアレ、騙される。「なんやねん、ホンマに、お前は!」なんて言われると何でもよくなっちゃうんだよな。そう思うとね、まだこういう(劇場に来る)方たちは映画が好きな人たちだよ、澤井ちゃん。
△澤:そうだね。
◯愛:こういう人たちが通常映画館に来て、そして席を埋めてくれるような映画があれば、うまくやれば…あと15年はもつね。
△澤:そういうまともな映画を見てもらうために、キンキンはつくったんでしょ?
◯愛:そろそろ紹介してもよろしい?
△澤:いいですよ。

*キンキンの映画紹介。反戦社会派映画特集。

◯愛:(キンキン監督作のポスターを持った女性に)もっとこっちいらっしゃい。ウチの事務所のモンです。
えーと、ちょっと説明させてもらいますけれども。僕の一番最初の映画は『さよならモロッコという映画で、モロッコまで撮りに行っちゃった。これがもうね、40年近く前になります。その頃から澤井ちゃんを知ってるんだけれども、トラック野郎の撮影とか終わっちゃってすっかりなくなっちゃって、(映画仕事の)ご注文もないから、僕はその頃、荒稼ぎした資金で映画を7本、今までに撮ってます。
その中の1本、『昭和の紅い灯』っていうのはたぶん第4作。今から5、6年前、いやもっと前だな、に撮った映画です。これが何かというと、僕の先輩は新劇、俳優座をつくった大先輩、千田是也とかそういう人たちがいるんです。演劇を好きな人ならお名前はおわかりと思うんだけど。この人たちは築地小劇場っていうのを日本で立ち上げて。築地に劇場をつくって、そこで進歩的な芝居をやっていて、年中おまわりに捕まって、連れて行かれちゃって、ぶん殴られたり逃げたりいろいろして、我が恩師の千田是也さんはドイツへ逃げて、ドイツで演劇の勉強をして、それから帰ってきたんです。
で、なんで千田是也って名前なんだと…これ、冗談だと思ったら本当だったんですね。東京の千駄ヶ谷で捕まったんですね。その頃は本名で、伊藤國夫とかっていうんですけど、で、捕まってぶん殴られて出てきて、千駄ヶ谷で捕まって「お前、朝鮮人だろ?」って言われて、顔が朝鮮っぽいのかどうかよくわからないけど、千駄ヶ谷のコリアン」ってことで「センダコリア」→「せんだこれや」→「千田是也」だと冗談とも言えないような名前を彼の反骨精神でつけたという大先輩です。もう亡くなられましたけど、私たちの恩師です。で、その方たちの時代の、築地小劇場の頃の、千田是也ではない誰か演出家がいて、小さな劇場がなんとかして生き残っていきたい、芝居がせっかく好きなんだから…というお話を僕がホンを書いてやりました。これが『昭和の紅い灯』。

隣にある『黒駒の勝蔵』ってのは、これは僕なんかも昔から映画で見てた清水の次郎長ってのは何本あるかわかんないくらいあるけど、次郎長ってのは伊豆のほうの親分。その敵に黒駒の勝蔵ってのがいる。この人は大体悪役なんです。次郎長ってのは悪役じゃないんですよ。創作の人物だけど次郎長の子分の石松ってのが出てきて、これも黒駒の勝蔵の子分が殺したってことになってるんですよ。僕もそういう映画をさんざん見たんだけど、よーく調べてみると、実は黒駒の勝蔵のほうが次郎長よりもあったかいヤツなんですよ。同じ侠客ですよ。で、そいつの人生(の記録)は残ってるんで、そのままのようにしてシナリオを書いて黒駒の勝蔵の伝記映画をつくった。その向こう側には次郎長が見えるんです。

我々(の国)は大衆ドラマ、大衆映画の中でも、本当の悪役をなかなか見せてくれない国家なんですね。トラック野郎は本当の国家を見せてますよ、どっかで。そういうのは僕の少なくとも精神でね、2本のそういう映画をつくりました。

―黒駒の勝蔵は映画では主役になってないですよね?
◯愛:なってないですよ。(黒駒の勝蔵役で)主役をやった人が誰もいない。どうしたって清水の次郎長の映画は歴史に残るものが山ほどあって、黒駒の勝蔵は単なる悪役でしかないから。悪役を主役にもってきたってしょうがないから誰もつくらないし、利口ならつくんないほうが得ですよ。でも、それを俺はあえてやった。この2本を、この映画館は不思議な映画館で、この映画館の企画者が社会派や戦争映画でずっといろんなものをやろうという上映企画で、8月11日にこの二本立てをこの映画館でやります。
8月11日はまた自分の映画でお邪魔します。どうもありがとうございました。

*最後に半券で抽選会をやったりしたのですが、そこは省略しました