フェラ・クティ「ザ・ベスト・オブ・フェラ・クティ<デラックス・サウンド+ヴィジョン>」

原題は「THE BEST OF/MUSIC IS THE WEAPON <Deluxe Sound +Vision>」。
フランス人映像作家によるフェラのドキュメンタリー『MUSIC IS THE WEAPON』 (53分)をまず見る。1982年、彼の拠点<カラクタ共和国>にて、圧政に決然と反逆し、アフリカ人による新たにして真なるアフリカ国家の実現を高らかに弁じるフェラの姿と、ナイトクラブ<シュライン>でのライヴ風景が映し出される。小柄で細身ながら引き締まりきった見事な肉体、青ブリーフ一枚で熱く語り、唄い演奏するその雄姿、まさに男子の鑑と云うべし! 男惚れさせられる。終始、ガンジャ(麻薬)のぶっといタバコ(葉巻き?)を手放さず、目を据わらせて悠然とうなり、踊り狂う。ううッ! カッコよすぎる! 
政府の兵士どもに母を窓から叩き落とされたあげく殺されても、いとしの妻たちをレイプされても、決して屈せず、身体を張っておのれの理想郷と音楽実現に人生を賭けたフェラ。当時44歳、男として脂が乗り切っていた時期だったせいか、そのたたずまい、神に入るものあり。80年代は音楽面では不調だったらしいが、このドキュメンタリーを見るかぎり、当時もフェラを語るうえで重要な時代だったようにも思われる。
フェラが亡くなった直後、「ミュージックマガジン」1997年10月号で、写真家・石田昌隆氏による追悼文と、氏撮影による94年当時のフェラの写真が掲載された。『MUSIC IS THE WEAPON』 から12年後とはいえ、映像と写真を見比べて、顔の老け込み方が尋常じゃないことに気付いた。エイズとの闘病生活が始まっていたのだろうか。
CDは2枚組、日本未発売のベスト盤。フェラのアルバムは数を聴いているわけではないので確言できないが、おそらくリマスターされ音質も音圧も向上、ノリノリの曲が並んでいて、続けて聴くとお腹一杯。
ところで、最後に文句を。フェラのヨーロッパ担当マネージャーだったリッキ・スタイン氏によるオリジナル盤解説の対訳がついているのはありがたいが、それ以外、DVDは無字幕、歌詞カードもついてないってなどういうこった? 歌詞の対訳までは求めないが、フェラの貴重なドキュメンタリーDVDが無字幕なうえに、ベスト盤なのに各曲のパーソネルはもちろん、発表年すら書いてない。
データ不足は海外盤ではけっこう当たり前だけど、いちおう国内盤として割高で発売しているんだから、最低限のデータくらいはつけて欲しかった。達者な英語しゃべっているワケじゃなし、字幕も充分つけられたと思うんだけどなぁ。
ユニバーサルって映画DVDの評判もメチャクチャ悪いけど、音楽DVDもダメなんだなぁ。ま、中身はサイコーだし、値引きで買えたから良しとしたいが、やっぱ許せんな。