3年前の春、北海道に行くため青函トンネルを通った。春休み前ってコトで、車中、お子様向けになんとドラえもん&のび太がアナウンスでトンネルを御案内していた。平日昼間、ガラガラの車内に子供の姿なんて皆無、車内放送はむなしく聞き流されていたんだけど、オレはなつかしさも手伝って、ニヤニヤしながら聞き入ってしまった。
いま、オレの手元には、本棚から引っ張り出した小原乃梨子著「声に恋して 声優」(小学館文庫)がある。
いちおう、説明しよう(<もちろん、富山敬調で!)
のび太で一躍国民的声優になった小原乃梨子サマだけど、てめえが気付かなかっただけで、のび太以前に彼女はBBであり、CCであり、ジェーン・フォンダであり、『タイムボカン』シリーズのマージョ、ドロンジョ、アターシャであったのだ。
ついでに言えばコナン*1でもあり、ペーター*2でもあった。
……なんてこった! オレは彼女の声を聴いて育ったんじゃないか!
ま、60年代末以降生まれの男女で、彼女の名前を知らずとも、声を知らない人間はまずいないわけだけど。まさに歴史的な声の持ち主なんである。
中学生くらいからTVの洋画劇場で映画を見るようになってお色気たっぷりな大人な女優たちからやたらなじみ深い声をやたら耳にするようになった。
……おいおい! コレ、のび太じゃん!? のび太、こんなに色っぽかったのかよ!? しずかちゃんならぬ、のび太に胸キュン!(<死語)
……なんて衝撃から、吹替ファンになる男子はけっこういたんじゃないだろうか? オレ的にはそうだったね。
ユリイカ!*3
それからというもの、どんどんスゴいコトがわかってきた。
オレが中坊だった頃、
ルパン三世はクリント・イーストウッドであり、
とっつぁんはチャールトン・ヘストン、
次元はリー・マーヴィンだった。
もひとつ続ければ、
海苔巻センベェはスティーヴ・マックイーン、
スペースコブラはアラン・ドロン、
ねずみ男&初代五ェ門はチャールズ・ブロンソンだった。
……わきゃるかな? (若人には)わッかんねぇだろうなぁ。
いまだにそうだが、実のトコ、まずは男気にヤラレる口なんで、*4
お色気担当の女性声優陣、
メーテルがオードリー・へップバーン、
山吹センセがマリリン・モンロー、
一休さんがゴールディー・ホーン、
アンパンマンはジュリア・ロバーツ……
ナンだのってのは徐々に知った。
東京なり都市部周辺で生まれて、物心ついたらごく自然に映画館に通えた方々と違い、オレみたく地方出身の映画ファンには多いパターンかもしれないが、残念ながら、映画は銀幕よりも先に、TVで見るモノだった。
まさに、「映画はTVで吹替で」((C)松久淳センセイ<現・作家、名著「吹替映画大事典」(三一書房)の編集者にして、洋画吹替の権威でもある)を地で行く原体験をしてしまったワケ。
大学に入るため上京したのは今から14年前。それからは毎日映画館に通いづめ、ビデオ見まくる日々。気付けば4年間、いや5年間(恥)で通算3000本以上*5、映画を見てしまった。
そんな生活のなかで、いつしか小津安二郎だのゴダールだのマノエル・デ・オリベイラだのロベール・ブレッソンだのテオ・アンゲロプロスだのウォン・カーウァイだの(笑)、名だたる“映画作家”が重要な地位を占めるようになった。
……でも、長続きしなかった。
ご立派な映画監督の、ご立派な映画がなんだってんだ、と。
「一言、言わせてもらってもいいかな? あんたの口はニオいますぜ!」
fromヤスベェ@イーストウッド『ダーティハリー3』<奥歯しっかり噛み締めて!
な〜んて言っちゃったりなんかして(<ココは広川太一郎調!)
結局、原点たるココに、趣味嗜好が戻ってきてしまった。
三つ子の魂百までも、ってヤツだぁな。
声に恋して。
映画より先に、声に惚れちまった人間の末路の一典型、それが吹替マニア。
新聞のTV欄およびケーブルテレビの番組表とにらめっこする日々は
これからも続く、延々と……。