『新・座頭市 I』第17話「母子道に灯がともる」

原作:子母沢寛
脚本:下飯坂菊馬
監督:黒田義之
音楽:村井邦彦
制作:勝プロ/フジテレビ


座頭市勝新太郎
おたき:中村玉緒
鮒吉:荒井つねひろ
卯平:花沢徳衛
長五郎:山本麟一
島三:平松慎吾
与八:新海丈夫
ほか


奥州街道大田原宿。新興のやくざ荒牛の長五郎(山本麟一)が、大親分の仏の六蔵を殺し、大田原の縄張りを盗った。長五郎が欲しいのは縄張りだけではなかった。六蔵の美人の女房おたき(中村玉緒)である。縄張りは黒い野心の外堀であった。もちろん簡単になびく相手ではなかった。
 女ながらも渡世人の女房。一時はおたきも弔合戦をしきりに考えた。だが、落ち目の一家に見切りをつけ、大勢いた子分も一人減り、二人減り、おたきは、紙のごとき人情と女の非力を痛感する。おたきには、幼い息子の鮒吉(荒井つねひろ)の成育だけが楽しみであった。非運の母子にたった一人変わらぬ忠節をつくす老やくざ卯平(花沢徳衛)。愚直なまでに昔気質の卯平の後姿にそっと手を合わせたいようなおたきであった。
 可愛さあまって憎さ百倍。女子供だと思って、おたきたちに対する長五郎一家の卑劣な嫌がらせは、日に日につのった。道中、座頭市勝新太郎)は、ひょんなことから鮒吉と友達になった。鮒吉には市が救世主に見えた。だが、鮒吉が得意そうに連れてきた市に、おたきは内心迷惑顔。仁侠道の醜い裏面と渡世人の女房の苦労を嫌というほど知りぬくおたきは、鮒吉をやくざにだけはしたくなかった。そんな心を知らぬげに、父親の血をひいて子供ながらも妙な度胸のある鮒吉は、わんぱく小僧のガキ大将におさまり、やくざごっこにうつつをぬかし、おたきはハラハラのさせられどおしだった。市の侠気が鮒吉のやくざ熱に拍車をかけるのではないか、というおたきの当惑も無理からぬ話であった。
 「肩で風切って、格好良く見えるかもしれないが、みんな小汚い虫けらだ。世間の嫌われ者。お天道様の下をまともに歩けないのだよ」。おたきの胸中を察し、市は鮒吉の不心得をじゅんじゅんとさとす。しかし、意気地のない母に代わって父の敵を討つという、けなげな鮒吉の大それた決心は変わらない。長五郎と決着をつけるのが、鮒吉のためにも卯平のためにも一番と決めるおたき。そんな時、長五郎からの呼び出しがきた。もはや長五郎の呼び出しを受けるより仕方がないと哀しい決意をして、単身で乗り込むおたき。そして…。