スティーヴ・ライヒ

オレ「あなたの音楽のトレードマークとも云うべき、延々と続くあの反復フレーズですが、アレを生み出す、『力の源泉』は一体、何なのでしょうか?」
ライヒ「それは、神の力です」

1997年だったか、現代音楽界の巨人スティーヴ・ライヒが来日した。その際、渋谷タワーレコードに来店、トークショーとサイン会があった。モーリー・ロバートソンが司会進行したトークショーもなかなか面白かったが、何と云っても、その後、サインを頂く時、通訳の女性を介して、ひとり一問、何でも質問していいと云われたのが嬉しかった。オレはいい機会だと思い、積年の疑問をぶつけてみた。
おだやかな面持ちと物腰のなかにも、見るからに強固かつ奥深い知性をみなぎらせるライヒ師は、通訳の方が適確に訳してくれた質問を聞くや、真顔で、「ふむ」と一瞬うなずき、いかにもさらりと無造作に、即答したのが上記の答え。
……か、か、カッコいいィッ! ミーハーなオレはいっぺんに舞い上がり、感動白熱した。
「Thank You Great Music !」
さらさらと手慣れた手付きでサインをくれ、握手もしてくれた師に、オレはおバカにも中学生英語で感動を伝えた。内心はいざ知らず、ライヒ師はにこやかに、こちらをまっすぐ見据え、驚くほど強い力で手を握ってくれたのであった。
音楽作品から受ける神経質なイメージはほとんどなく、言葉遣いや立ち居振る舞いはいかにもアメリカ人らしく、きびきびと、精力的で、実にシャープだった。心身に宿る健全な力強さこそが、ライヒの音楽の源泉なのであろう、とひとり解釈した次第だ。
ま、もともと現代音楽に詳しいわけでもなく、その当時、たまたまミニマルミュージックに興味を抱いていて、いそいそ駆けつけただけのこと。今は初期作品「アーリー・ワークス」くらいしか聴き返さないが、聴くたびにナマで聞いたこのセリフを思い出す。真の音楽家はかくあるべしであろう、と。<