司馬遼太郎「斬ってはみたが」

「人間の現象は、おもわぬ要素が入りくみあって、瞬間という作品をつくる」

国民的歴史小説家、司馬遼太郎の短編の一節から(「アームストロング砲」講談社文庫所収)。幕末の剣士、上田馬之助の奇妙なる肖像を綴った一作。
何を隠そう、司馬遼センセイこそ、オレの座右の作家。最高時はトラック数台分もの資料文献を渉猟・参照するほど、超綿密・超膨大な取材の果てに、歴史上の人物をありありと*1眼前に浮かびあがらせる独自のリアリティあふれる筆致、ガキの頃から何度読み返したかわからない。登場人物の性格を子細克明に描写したのち、「〜であろう」としめくくるのが得意技だが、「〜であろう」もナニも、センセイ、御自分で書いてるんじゃあ〜りませんかッ! って、各所でツッコミ入れたくなりまくりだったり。
上記は数ある司馬作品中、オレ的にとびきりオキニな一文。まさしく、司馬センセイの世界観を端的にあらわしたフレーズだと思う。
なお、読み下すに独特のリズムと音感をたたえたこころよさがあるとはいえ、やや「整合感」に欠けるというか、下手すれば冗漫さもはらむセンセイの文体は、クセがありすぎるゆえ、正直言って、オレ自身はいわゆる名文ではないとも愚考している。しかれども、一度ハマると抜けられないんだ、この司馬遼節は! 麻薬みたいなモンだ。

*1:司馬遼太郎の常套句