クリント・イーストウッド『アルカトラズからの脱出』

「まだ聖書を読んでるのか?」という看守のバカにしたような口ぶりに平然と切り返す、男の中の男一匹イーストウッドならではの名台詞一丁。吹替ファンにとっては、最高のヤスベェ節が堪能できるフレーズでもある。何度見ても、しびれるねぇ。
小林清志(ポール・ベンジャミン)による金玉縮みあがらんばかりのドスききまくりな押し殺したベシャリ、いつになくしゃがれ声で無慈悲な響きの納谷悟朗による血も涙もない鬼刑務所長(パトリック・マクグーハン)と、声優が端役に至るまで大名演。オレにとっては吹替マイベスト3に入る大傑作。暗記までしてないが、ほとんどの場面を口真似再現できるほど。
今回はフジテレビ深夜、3:00〜4:45の『ミッドナイトアートシアター』枠での放映版。カットの仕方が以前、日本テレビ金曜ロードショー』枠でやったのより雑になり、ドク(ロバーツ・ブロッサム)が菊の花をイーストウッド扮するモリスに託し、自らは狂気の淵に沈むという、男なら泣かずにおられぬ名場面が意味不明な放送コードだかなんだかの自主規制のため、ズタズタに。未見の方のために詳述は控えるが、こういうコトされると、吹替ファンならずとも映画ファンはまさにわが身を切られる思いがするってコトをわかってほしいね>TV屋さん あんたらがやってるのは、他人の作品ばかりか、その作品をいとおしむ者の「記憶」までをも断ち切っているってことを、骨身に沁みて感じてほしい。どうせ誰も見ねぇ深夜枠だからって、ガンガン余ったCM入れられたり、と尺が詰められてたりする事情くらいは察しているつもりだが、言わずにはおられぬ。
ところで、4、5年前だか、突然NHK教育テレビだったかで、本作の題材となった、アルカトラズ刑務所におけるフランク・モリスとアンブリン兄弟の脱獄の実像を伝えるドキュメンタリーをやっていた。それによれば、3人は残念ながらまずまちがいなく溺死か凍死し、遺体は遠く大平洋に流されてしまったであろう、とのことだった。それくらい、“ザ・ロック”周辺は海流が強い場所だそうな。そういった「事実」を知らされてなお、彼らが為した脱獄劇には畏敬の念を覚えずにはいられない。
「大事なのは“結果”じゃない。オレたちが描いた夢そのものさ」なんて言葉を吐いたのはフランシス・フォード・コッポラ監督作品『タッカー』の主人公であったか。フランク・モリスらの行ないは、夢なぞといったロマンティックな類のモノではないが、それでも、卑小なる人間がなし得る、ありとあらゆる形での「可能性」のひとつだったのは間違いない。そうであるからこそ、オレ含む、本作のファンは心動かされるのではないだろうか。
追記。↓頑張れば、泳げなくはないらしい(?)。
http://www.cnn.co.jp/fringe/CNN200405140022.html