つみきみほ『蛇イチゴ』


“21世紀の向田邦子”(!?)
期待の若手女性監督登場! 『蛇イチゴ

 リストラされた父親がひそかに抱えた借金のせいで、一家離散寸前の危機に陥ったある家族の元に、勘当されて家を飛び出した詐欺師の長兄が舞い戻ってひと波乱! 気丈な小学校女教師の妹は、そんな兄に毅然と向かいあうが……。
 名作文学モジリで言うなら「父帰る」ならぬ「兄帰る」ってな具合。バブル崩壊後の変則版「あにいもうと」の趣きもあったり。往年の名作ホームドラマが銀幕に甦ったかのごときユニークな佳作。
 主演は雨上がり決死隊宮迫博之。飄々たる妙演がニクい。ヒロインはお久しぶりな観あり、つみきみほ。終始冷静な、凛とした物腰が素敵。
 監督・脚本は74年生(!)の新人・西川美和。とにかく本作、脚本が素晴らしく、各キャラクターの描き込みがいちいちリアルで感嘆しきり。映画ならではの「画だけでしっかり語る」力がもっと身につけば、すごい傑作を撮れると思う。ただでさえ人材不足な邦画界、彼女のような貴重な若手逸材は観客側もしっかりフォローしとかないとヤバいでしょ。
 なお、彼女がNHKで撮ったドキュメンタリー『いま裸にしたい男たち 宮迫博之編/宮迫が笑われなくなった日』も機会あればセットで見ると、お楽しみはさらに倍増かも。*1

 昨日とある筋からDVDを拝受(感謝!)。で、クリアな画面で見直したら、昨年、映画美学校の試写で見た際、人物配置等やや気になった画作りが、TVモニターではしっくりきていて、ちょっと驚き。
 主演の宮迫博之が特典のオリジナルメッセージで語るとおり、「ただじっと眺めているだけ」でも、随所に可笑しみを感じさせるドラマである。好き嫌いはとりあえず抜き、見て損はなしと言っておきましょう。


*1:「某実話系月刊誌」新作映画紹介記事を改稿